「ゲティスバーク…、そしてS町」

 ▼…もう20年余りも前の話。北海道知事選挙の立会演説会が、函館市民会館で開かれた。造船不況のまっただ中、有権者の関心は低くなかったが、ヤジと怒号に論争はかき消された。「人殺し」「ウソつき」の罵声に、思わず顔をひきつらせ、身を震わせた候補者の姿が今も目に浮かぶ。これが、官主催の立会演説会としては、最後の舞台となった。

 ▼…S町の公会堂で、政経部の駆け出し記者時代を思い起こしながら、町長候補二人の論戦に耳を傾けた。会場は千人以上の住民であふれ返ったが、あの異様な光景とは対照的だった。住民は発言に耳を澄まし、両者に公平に拍手を送った。ボランティアが会場整理や質問票の回収にきびきびと動き回った。

 ▼…町長選告示前日の公開討論会は、「もっと候補を良く知りたい」「町民により近い選挙を」と有志が企画し、ボランティア組織のリンカーン・フォーラム北海道がサポートした。醜い政争を繰り返してきたこれまでとは、異質の動きだった。かつて飛び交った怪文書も、大方の予想に反して影を潜めた。

 ▼…「人柄を直接確かめてみよう」「政策の違いはどこなんだろう」。地方自治のリーダーを目指す者の資質と政策がこれまで以上に問われる。住民とのコミュニケーション能力も求められる。「土建屋選挙」「どぶ板選挙」と呼ばれた地方選挙に、少し新しい風が吹いてきたような感じがした。

(8.Sep.2000 梶田博昭)