カンポ広場は圏外表示

 ▼…「伝聲器の改良ありて十里の遠きを隔てたる男女互に婉々たる情話をなすことを得べし」。1901年1月2日付けの報知新聞に、こんな百年後の世界が予言されている。テレビニュースで成人式の会場に集まって来た男女を見ると、「伝聲器」とは携帯電話のことだと納得し、先人の明に感心させられる。しかし、「伝聲器」が姿形まで伝えるとまでは、思わなかったらしい。

 ▼…不思議なのは、時空を超えて「情話」をなすこともできる彼らが、なぜお役所がしつらえた現実の空間にわざわざ出向くのか。「インパク」があるのだから、インターネット成人式があれば十分ではないか。市長はクラッカー爆弾を浴びなくとも済むわけだし。

 ▼…同じ日。イタリア中部の山岳都市シエナのカンポ広場では、若者も年寄りも、肩を寄せ合い、そぞろ歩きや会話を楽しんでいた。これが、百年前、二百年前と変わらぬ風景なのだという。迷路のような細い道は全て広場につながり、路地を抜けたときの開放感から、外人であることを忘れて周囲の誰彼となく声を掛けてみたくなる。

 ▼…いくら「伝聲器」が発達しても、情(こころ)の通じたコミュニケーションを交わすには、確かな存在感が必要なのだと思う。携帯を手にしながらも式場に集まって来る若者は、というよりIT社会に生きる人間は、バーチャルな空間ではなくて、カンポ広場を求めているのかも知れない。 

(12.Jan.2001 梶田博昭)