森を治める者は、国を治める

 ▼…愛知県長久手町。トヨタ博物館から眺める丘陵地帯は、緩やかに広がっていた。戦国ドラマの舞台となった遙かな濃尾平野を愛知用水が南北に縦断する。総延長1千キロを超える用水整備は、世界銀行から借金してまで押し進めた戦後の超大型公共事業の一つだった。

 ▼…長久手、三好町など5市町に給水している愛知中部水道企業団が、長野県の木曽広域連合と「交流のきずな」を結んだのが昨年夏。県境を越えて100キロも離れた両地域が手を取り合うのは、木曽川水系の水源を守るためだった。今年6月からは、下流域の住民が水道使用量1トンにつき1円を上乗せして料金を支払い、水源涵養林保全の基金を造成することも決まった。

 ▼…森林は「自然のダム」としての機能を持つから、下流域の住民が、莫大な費用のかかるダム建設に代わる公共事業を自己負担で行おうとしているともいえる。田中康夫長野県知事がダム事業の見直しを図り、橋本大二郎高知県知事が「水源税」の導入方針を打ち出したのとも、発想の根源は同じだ。

  ▼…水は再生可能な資源だが、米国スタンフォード大学の研究では、今のペースで水を使い続けると、30年後に枯渇する、と警告している。水は、生活ばかりでなく、産業活動にも欠かせない。涵養林保全基金の先鞭を付けたのが、自動車工業のまち・豊田市であることも、うなづける。

         (16.Feb,2001 梶田博昭