貴方はもう忘れたかしら…

 ▼…南こうせつのフォークソングの舞台に描かれた神田川の地下深くに、巨大なダムがあるのをご存知だろうか。台風などの大雨で急増した川の水を、一時的に貯める、防災都市・東京の「秘密兵器」だ。と言えば格好良いが、コンクリートで覆われた都市の、「苦肉の策」と言った方が分かりがいい。

  ▼…しかし、コンクリートで固めるまちづくりは、都市ばかりでなく、田舎においても進められてきた。「中山間地総合対策」と呼ばれる公共事業中心の政策に基づく。ウルグアイラウンドによる農畜産物の輸入増加を背景に、生産地を守ることを建前としたが、住民は徐々に土建業に頼らねば生計が保てず、景観や自然など田舎の財産も損なわれていった。

 ▼…構造改革の流れの中で、ある町は「脱・公共事業」を掲げ、ある村は田園観光の振興を謳う。その象徴としてグリーンツーリズムが地域起こしの起爆剤のようにもてはやされるが、果たして田舎の資産価値は未だに保たれているのか。都市住民がちょっと憧れるような、家族の営みはあるのか。上辺だけの居心地の良さを演出してはいないか。

 ▼…EU諸国では、地域の生産と人口が維持され、美しい農山村が保たれているからこそ、都会の人々が休暇を楽しむことができる。田園あっての観光なのだ。注目すべきは、食糧生産を担い、環境保全に果たす「田舎の価値」を評価し、国が農林漁業者に所得補償している点だ。大いなる田舎・北海道はどうか―。

(10.Sep,2001 梶田博昭)