超高層ビルと巨大飛行船

 ▼…「馬に乗った丹下左膳」という評論の中で、劇作家の別役実が、「発明の幻想時代」の象徴として飛行船を挙げている。「神のみが創り賜う」領域に踏み込んだ結果が、その余りに巨大でグロテスク(=優美)な姿態であり、内包する危険にあると。そして、幻想時代の終焉は1937年、謎の爆発で世界を震撼させたヒンデンブルグ号の最期によって訪れる。

 ▼…テロの標的となった世界貿易センタービルと重ね合うように、ヒンデンブルグ号のニュース映像を思い起こした。センタービルもまた巨大であり、優美であり、結果的に危険を内包した「文明の産物」であったとも言える。異教の暴徒が「神への挑戦」に対する懲罰をも意図したとすれば、何か因縁さえ感じる。

 ▼…別役は、飛行船以降を「実用重視で幻想領域を超えた、発明発見物語の第2の時代」と呼ぶ。同じ流線型でも、飛行船のそれはまがまがしいほどに感動的だが、新幹線のそれは単純な機能美に過ぎないと。超高層ビルもまた、文明の力は感じさせても、中世あるいは古代建造物の持つ神秘的な魅力には乏しい。

 ▼…しかし、「第2の時代」に内在する最大の問題は、「幻想」と「現実」の領域が曖昧化し、神と人間の領域の境界が見分けにくくなってきていることにある。サイバーテロや核施設攻撃、遺伝子レベルの生物兵器やクローン技術など、テロが狙う新たな標的が、実は、この時代の発明発見に内在する「危うい部分」に向けられていることが分かる。

(17.Sep,2001 梶田博昭)