「遙かな尾瀬」も写メールで

 ▼…雑誌の企画で自然写真家の岡本洋典さんと対談する機会があった。季節の一瞬を花々で装う山岳湿原・雨竜沼(北海道)の魅力と学術的価値を世に広めた方だが、素晴らしい自然を多くの人に知って欲しいという思いの一方で、人が入り込むことによって貴重な自然が少しづつ損なわれるのが悩みともいう。

 ▼…確かに、登山ブームとカメラの普及が秘境を俗化させ、ときにお手軽ツアーが自然のしっぺ返しを受ける。この9月、尾瀬には「携帯」の基地局が開設された。自然保護団体の反対もあって通話エリアは限定されているが、やがて「遙かな尾瀬」は歌の世界だけになるのかも知れない。

 ▼…岡本さんは「写真家としての贖罪」の意味も込めて、自然学習重視の写真塾を開いた。「写真を撮る際にも、生命や環境に対する配慮が必要だ」という理念から、撮影テクニックよりも自然を理解するための知識、体験が講義の軸となっている。そこから生まれる塾生の作品にも、自然や生命の神秘に迫るものがある。

 ▼…彼が提唱する「エコ・フォトツアー」は、環境の視点と体験学習を加味した一種のグリーンツーリズムで、観光王国・北海道の新しい方向をも示している。登山や写真撮影には自然に対する一定の知識と理解を求めるライセンス制も、「北海道スタンダード」に加えてはどうか。

(24.Sep,2002 梶田博昭)