コミュニティ・ミニマム

 ▼…シビル・ミニマムの質的整備を自治体に期待する政治学者の松下圭一さんが、量的充足が唯一遅れている政策領域として下水道を挙げたのが90年代初めだった。先日、政府が発表した、公共下水道などの汚水処理施設の整備率は、全国平均で74%。当時は50%台だったから、ようやく、西欧諸国の背中が見えてきた。

 ▼…ところが、人口5万人未満の自治体に限ると、整備率は49%に過ぎない。5万人未満の市町村は約2770あるから、地方においては、半分の家庭の生活排水が垂れ流し状態ということになる。全国平均74%とはいえ、その恩恵に浴しているのは都市住民にほぼ限られているのだ。

 ▼…世帯平均貯蓄が1700万円と聞いて「あれっ」と思う庶民が多いように、「平均値」というのは、往々にして実像や実感とかけ離れていることがある。広告や宣伝の世界では、「平均値」を利用したトリックが潜んでいることもある。平均を「標準」「普通」と錯覚する心理の虚を衝いて。

 ▼…下水道整備率の場合は、分母が大きくなる(広域で見る)ほど、問題の本質(小規模町村の課題)が見えにくくなっている。市町村合併の論議にも、似たような落とし穴がある。規模拡大・効率化の一方で、都市の周辺地域が崩壊していく危険が。コミュニティ・ミニマムの視点から「大同」を考えることも必要だ。

(7.Oct,2002 梶田博昭)