2つの学校

 ▼…建築家ウイリアム・ヴォーリズが設計した滋賀県豊郷町の小学校建て替え問題が、町長のリコールにまで発展した。騒動を聞きながら、豊郷小の1年前に建てられた山口県萩市の明倫小学校を思い起こした。こちらは誰の設計か分からぬが、幕末の志士を輩出した藩校・明倫館の歴史を偲ばせる木造2階建て。

 ▼…校内には、学問の神・孔子をまつる聖廟や水練池などの史跡が残る。3年生からは「松蔭読本」を教材に、学ぶことの楽しさを身につける。相撲場よりはパソコンの前で子どもたちの歓声が聞かれるようになったが、古ぼけた校舎とともに、建学の精神は3世紀にわたり息づいてきた。

 ▼…古い物を愛し、残すというのは、一つの価値観だが、建築物においては、その機能や文化性が重要ではないか。明治村に収まった旧・帝国ホテルが私には無惨に映るのは、本来の機能を失っているからだと思う。確かに価値や機能を再生・保存することは容易でない。法や国家に限界があるなら、個の力も必要となる。

 ▼…豊郷小保存を求める父母は「建物の保存ではない。ゆったりとした文化の香り高い教育環境を守りたいのだ」という。大賛成だ。明倫小の校歌の一節にもこうある。「名ある歴史のあとを踏み、文化新たに光あり」。本当に大切な物を見失ってはならないし、守るには覚悟も要る。

(20.Jan,2003 梶田博昭)