ご用聞きは何でも知っている

 ▼…金銭登録機(レジスター)が「おしん」の田倉商店に登場したのは、1956年のことだった(TVドラマの話だが)。ご用聞き・対面販売からセルフサービスへ。「商売はお客様の顔を見てするもの」と信じてきたおしんも、時代の趨勢には逆らえなかった。半世紀経て、登録機はPOSレジへ、カードが客の顔に取って代わった。

 ▼…ますます客と店の関係は無機質になるかと思えば、そうでもないという。サービス業の最先端では、蓄積された顧客データがマーケティングだけでなく、親密な接客を演出するために活用されるというのだ。客から見ると、初対面のはずの店員がまるで笑顔のおしんの親しさで。

 ▼…最近、中国への海外出張が多いとか、夫人の母親の誕生日には必ず花をプレゼントするとか。そのくせ夫人よりは愛犬の体調の方が気懸かりといったことさえ知っていて、まるで親友のように語りかけてくる。何のことはない。そうした情報が、目の前のコンピュータ画面に並んでいるからできる芸当なのだ。

 ▼…顧客情報を生活史情報に組み立てるCRM(カスタマー・リレーション・マネジメント)と呼ばれるソフトは、米国で急速に普及しつつあり、やがて日本でも一般化するだろう。客の心をくみ取ってくれるのは有り難い面もあるが、カードを使う度に自分以上に自分のことを他人に知られるというのも不気味な感じがする。

(9.Feb,2004 梶田博昭)