子母沢寛の視点

 ▼…NHKの大河ドラマで新撰組ブームに再び火が着いた。京都では、新撰組を地域資源と位置付け、まちづくり・まちおこしにつなげようという「全国新選組サミット」が開かれた。土方歳三ゆかりの東京・日野市は、「新撰組まちおこし室」を開設、芹澤鴨ゆかりの茨城県玉造町を走る鹿島鉄道には特別号も登場した。

 ▼…近藤勇は今や青春ドラマのヒーローだが、新撰組の実像は、永く歴史の闇に埋もれてきた。幕末・明治の歴史の中で、彼らは暗殺者集団であり、官に背く賊軍として見られてきたからだ。子母沢寛が「新撰組始末記」を書いた昭和初期になって、ようやく人々の関心を呼ぶようになった。

 ▼…幕末を官軍・賊軍で色分けするのが正史とすれば、子母沢は、陽の当たらない者たちを通して歴史の真実を探ろうとした。いわば時代の敗残者の証言を片っ端から聞き書きすることによって、正史では見えなかった実像を浮き彫りにした。映画化で人気を呼んだ座頭市も、そんな闇から掘り起こされた一人だ。

 ▼…子母沢によると、実際の座頭市は映画のように派手な存在ではなかったという。それでも、遊侠の徒や賊軍に人々が快哉を叫ぶのは、歴史の奔流に抗うアウトローに何か共鳴するものを感じるからだろうか。少なくとも共感・共鳴は、作家の「もう一つの視点」から生み出された。

(18.Oct,2004 梶田博昭)