市町村合併の論点(7)〜近隣自治を考える4

2002/10/07
(オンラインプレス「NEXT212」96号掲載)

 

 韓国の場合

 韓国の地方自治は、政治変動によってその姿を変えていきました。現在は、特別市のソウルはじめ釜山などの6広域市、9道の計16の広域自治体と、市・郡・自治区と呼ばれる232の基礎自治体で構成されています。基礎自治体では、その下に区・面・邑、行政洞・里と呼ばれる行政単位が設置されています。

  住民の自治的な組織としては洞、里の下に設置されている「班(バン)」の存在が注目されます。班という名称は、1917年に日本政府が植民地統治の手段として組織したのが起源とされています。戦後の曲折を経て、1976年には市・郡の条例に基づく「班常会(バンサンヘ)」の設置が制度化されました。

 ■上意下達の組織から自律運営へ

  班常会は、「行政施策の無難な推進と洞、里の行政を効率的に遂行する」のが目的で、具体的な役割として

  1. 相互扶助の精神を育て、共同の関心事を自律的に解決する
  2. 班員の集約された意見を行政に反映させる
  3. 住民の民主的対話の場

〜などが挙げられています。1つの班は、30世帯前後の各世帯主と主婦で構成されるのが一般的で、全国に約46万の班が設置されているそうです。

  自治体の首長を選挙で選ぶことができるようになった95年以前は、政府の施策を伝達することが班常会の主たる機能でしたが、これ以降は自律的に運営される傾向が強まったとされます。班常会の中には、会館の建設や防犯組織の運営、奨学事業などに取り組む例もあり、集合住宅化が進んだ都市部では、アパート管理運動などの性格も持つようになってきているそうです。 

  ■ 住民自治センター事業が始動

  98年に発足した金大中政権は、基礎自治体の下にある邑・面・洞の制度廃止を目指すとともに、都市部を中心に「住民自治センター」の設置事業に着手しました。洞事務所で行っていた道路、交通、建設などの事業を区庁・郡庁に移し、住民サービスの強化を狙いに市民団体が運営する計画でしたが、洞の全面廃止は難しいとの判断から、現在は洞長が責任を持って運営する態勢を取っています。

  洞ごとに住民15〜30人による「住民自治運営議員会」を構成していますが、洞長の決定に対する諮問機関的な機能を持っているようです。

  住民自治センターが行っているプログラムは、私立のカルチャーセンターや塾が行っている内容と重なり合うものが多く、住民同士による自然な交流を促進することに重点が置かれています。まだスタートしたばかりの事業ということもあって、交流をきっかけに地域の問題解決やコミュニティづくりに運営・活動を発展させていきたいとの考えがあるようです。

 近隣自治と町内会

 コミュニティレベルの地域住民による自治的な仕組みは、諸外国においてもさまざまな形態を見せています。ここで紹介した英国のパリッシュ議会のように法人格を持ち、決定機能を持つものもあれば、スウェーデンのように社会福祉や教育、レクリエーションなど幅広い分野で決定権と執行権を持つ近隣政府もあります。また、ドイツでは、法人格は持たないが住民の直接選挙で選ばれた議員が一定の分野について自治体の行政を拘束する決定権を持っています。

 これらに共通するのは

  1. 基礎的自治体において都市内分権・組織内分権を進める
  2. 民意を代表する組織を新たに設け、コミュニティレベルで独立して一定の機能を担う
  3. 法令や条例などで制度化されている

〜といった特質を持っている点です。

  これに対して日本では、自治会、町内会、ボランティア団体、NPOなどの住民組織が、主体的に地域活動に取り組んだり、基礎自治体の行政に参加し、行政がこれを支援したり、共同で行うといった取り組みが主流となっています。いわゆる「住民参加型・協働型」のまちづくりと呼ばれるものです。

  近年は、住民組織と行政の連携を基盤としながら、さまざまな取り組みが試みられています。特に、地域共同体としての歴史を持つ自治会・町内会の再編・強化や、自立性の高いNPOとの連携など、新しい展開も期待されています。

  また、法人格までは持たないが、コミュニティに関わる計画や政策づくりに住民の声を積極的に反映させることを目的とした「まちづくり協議会」や、事実上の意思決定を行う「市民委員会」といった近隣自治の仕組みも見られます。行政サイドでは、市長権限を地域的に分掌する行政区や、支所・出張所の機能拡充、地域担当制などの取り組みが見られ、これらは、ドイツ型の近隣政府につながる可能性を持っているといえます。

  市町村の合併・再編の流れの中で、取り残された小規模自治体や新たに誕生した大型都市の住民自治を考える上で、近隣自治は一つの可能性を示しています。ただ、欧米型の近隣政府をそのまま導入するのではなく、地域の実情にあ合ったしくみづくりが求められます。それと同時に、自治のしくみづくりに当たっては、「地域の主体的な選択」と「多様性の尊重」が基本に据えられるべきことはいうまでもありません。

 

 

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