地方議会は変われるか〜改革の最前線と課題

2003/02/17
(NEXT212第111号掲載)

 

 1. 改革の第一歩は「対面討論」

 地方分権時代にあって、地方議会はどう機能したらよいのでしょうか。市町村合併をめぐる論議では、協議会設置を求める住民請求が議会で否決されるケースも見られます。また、住民投票制度や住民参加と議会制度との関係についても、住民自治を考える上で今後、大きな焦点になってくるものと考えられます。

 ■こんな議会・議員はいらない

  分権の流れの中で「改革派」と呼ばれる首長が登場してきたのに対し、地方議会の動きは総じて緩慢にも見えます。知事不信に端を発した長野県の動きなどを見ると、議会と住民の間の意識のずれが表面化しつつあるかのようにも感じられます。

 一般的に、地方議会・議員に向けられる批判は、次のような声に集約されるでしょう。

 「党派間、党派と理事者間の力関係や思惑による議会運営が行われ、一般の住民に議会論議の内容が分かりにくい」  「建て前と本音を巧みに使い分けた議論が多く、選挙区向けのスタンドプレーを狙う議員と、保身第一の理事者との間で、しばしば『なれあい』が演じられる」  「議員が住民と接触するのは選挙の時だけで、当選してしまうと遠い存在の『先生』になってしまう」

 もちろん、これらの問題は、「あなた任せ」や「ご都合主義」といった住民側の問題と裏表の関係にあり、選挙での投票率の低下も議会の沈滞と無縁ではないでしょう。一方では、議会不信の延長線上で住民投票に結論をすべて託すような考えもありますが、これにも問題があります。議会離れにくさびを打ち、地方自治の砦でもある議会に本来の機能を持たせるには、「議会改革」もまた今日的な課題といえます。

 ■「常識」打ち破った三重県議会

 「議会改革」のモデルとして注目したいのが三重県議会です。スタートしたばかりの第1回定例会から装いを新たにした議場が、改革の取り組みのシンボルといってよいでしょう。写真にあるように、他の議場と最も異なるのが、議長や理事者席と向き合う形で議員発言用の演壇が設けられていることです。そして、正面の壁には大きなスクリーンが掲げられているのも、目を引きます。

 「対面演壇方式」と呼ばれるように、理事者と議員が相対して議論するために取り入れた方式です。国会の議場と同じ従来の方式では、理事者に対して質疑や意見を投げかける議員が、理事者には背を向けて、同僚議員に向けて発言します。確かに、これまでの地方議会は、議場の構造からして「議論の場」にはふさわしくなかったわけです。

 2. 「二元代表制」の特質を生かす

 三重県議会の「議場改革」は、「議員が執行部に対して質問するのに、なぜ執行部席側から議員の方に向かうのか?」という素朴な疑問から始まったそうです。県議会のみならず市町村議会の多くが「国会方式」を採っているのは、国会議事堂を模倣したからにほかなりません。

 ところが、国会は、国民から選挙で選ばれた議員によって内閣(行政府)が構成される議院内閣制を採っており、行政府の代表である首長と議会を構成する議員の双方を住民が選挙で選ぶ、地方自治のしくみとは基本的に異なっています。

 ■変化から取り残される政党・議会

  首長と議会が直接選挙によって並立する、この「二元代表制」が地方自治の本質であり、議論の循環を通じて地域の独自の政策を形成し、執行するのが本来の姿です。それにもかかわらず、議会内が国会と同様に与野党に分かれ、多数派が首長を押し立てて行政を動かしてきたのは、地域における政策の選択よりも国からの交付金・補助金の「分捕り」が行政の重要な役割とされたからです。

 インフラ整備がほぼ充足するころには地方選挙での争点もぼやけ、「総与党化体制」が主流となりましたが、これら一連の「疑似二元状態」に冷水を浴びせたのが改革派首長の登場でした。彼らは、「三割自治」から分権の時代へと流れが変わる中で、政党とは一線を画しながら、地域特性を生かした政策の選択と質的充足を追求しようとしたのです。

 改革派首長と議会との間の確執・混乱は、分権時代に追い付けず、思考が「疑似二元状態」から脱しきれない議員・政党のサイドに起因するといっても良いかもしれません。

 ■議員提案で条例・政策づくり

  そうした意味で、三重県議会が改革に動き出したのは、改革派首長の筆頭とされる北川正恭知事の存在とは無縁ではないでしょう。三重県議会では「議場改革」にとどまらず、議会の機能改革にも積極的に取り組んでいます。議員提案による条例制定も相次ぎ、5年以上にわたる総合計画や企業会計への出資などを条例によって議決事項に加えました。

 分権時代は「条例の時代」でもあり、地域の独自政策の柱となる条例は、首長の専権事項ではなく、議会(議員の8分の1以上の賛成で提案できる)にも権限が与えられているのです。条例制定権は、住民にも与えられおり、地方自治法は「二元代表制」の一方あるいは両方が怠慢な場合は、有権者の50分の1以上の署名で直接請求できる道も開いています。

 先進自治体では、住民からの訴えに備えた訴訟法務だけでなく政策法務にも重点を置くようになってきましたが、議員(議会)もまた法務に精通した政策づくりが求められています。(グラフは関東弁護士会連合会による関東圏の自治体調査から)

 3. 「フォーラム機能」を高める

 市町村合併をめぐる問題が、地方議会と住民の関係をあぶり出している一面があります。合併協議会の設置を求めた住民発議の動向をみると、52地域206市町村で計101件の住民発議があったのに対して、住民の意向を受けて協議会を設置したのは27件。残る74件のうち35件については首長判断で拒否し、33件については最終的に議会が否決しています(3月14日現在)。

 ■情報共有のチャンネルを開け

  議会が否決した徳島県宍喰(ししくい)町の場合は、直接請求による住民投票にまでもつれこみ、設置賛成68.04%、反対31.96%(投票率67.30%)の結果に基づき、近隣2町とによる協議会設置が決まりました。議会の拒否理由は「合併についての論議不十分」といった消極的なものでしたが、住民と議会の考え方の乖離が浮き彫りにされたケースです。

 住民からの直接請求では、住民投票条例の制定を求めるものが増えています。しかし、この面でも、議会が請求を否決するケースが多いのが実態です。合併問題と関連した請求では、総じて判断についての慎重論が否決理由とされていますが、公共工事の実施や環境に関わる請求では、議会制民主主義との関係から否決する事例が目立ちます。

 議会改革を考える上でも、住民意思と代表民主制の関係が問題となりますが、住民自治の理念に立つと、やはり直接民主制が代表民主制のベースと考えるべきでしょう。しかし、住民意思と首長、または住民意思と議会を常に対立させるのではなく、互いの意思疎通のチャンネルを開いた上で、なおかつギャップが解消されないときに直接請求なり選挙なりで解決・決着を図るのが自然なように思えます。

 ■議論公開し、多様な声を吸収

  首長と議会の代表二元制からも、行政が住民参加による政策形成や施策を推進すると同様に、議会もまた政策づくりや行政のチェックに住民の声を反映させる取り組みが求められます。特に、議会においては、行政・まちづくりの過去・現在・未来を広範な立場・視点から検証・討論する「フォーラム機能」を高めていくことが、重要な課題だと思います。

 そのためには、議員の考えや議会での議論を積極的に公開し、同時に住民の多様な意見に耳を傾けるしくみづくりが基盤となるでしょう。既に、インターネットやCATVなどを活用した情報提供に取り組む自治体が出てきていますが、改革派首長と同様に議員・議会もまた情報発信力が求められています。

 

 

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