212の21世紀〜マチは変われるか

第3部・情報編

 1.空飛ぶ町長室
 「情報」あってのまちづくり論議

 予算・決算をかみ砕いて説明/全戸配布のニセコ町の予算説明書

 北海道の市町村では今、公営の温泉づくりがブームとなっています。自治体にとっては、介護保険の態勢整備と合わせて、立派な温泉とパークゴルフ場を提供することが行政の大きなテーマとなっています。

 六十五歳以上の高齢者が人口に占める比率は年々高まり、九五年の国勢調査では全道の高齢者人口比率が約一五%に達しています。町村部・郡部はさらに高齢化が進み、二〇%以上は百四十五市町村、このうち五十一市町村は二五%にも達していますから、温泉による福祉のまちづくりもうなずけます。

 後志管内ニセコ町でも、ご多分に漏れず温泉建設が町の話題となりました。役場と町民の対話の場である「まちづくり懇談会」では、町民の意見が「他町に負けないものを」という『ゴージャス派』と「分相応なものを」という『身の丈派』に二分される場面がありました。

 住民福祉の拡大に関わるテーマでは往々にして慎重論は出にくいものです。それが、役場対町民や役場対議会という対立ではなく、町民対町民という図式で論議が繰り広げられたのは、注目すべきことです。

 ■「財政ハンドブック」

 町民同士の政策論議が活発に行われた背景には、住民参加に積極的な逢坂誠二町長のリーダーシップと懇談会の積み重ねもあります。しかし、それ以上に見逃してならないのは、町の財政について町民が一定の知識を持ち、財政と町づくりの関係についての理解が進んでいたことが挙げられます。

 ニセコ町では、九五年度から「もっと知りたいことしの仕事」と題した予算説明書を作成してます。町が置かれた状況を少しでも理解してもらおうと、財政状況や生活環境の整備状況を分かりやすい言葉と図表で示しています。全戸配布で、今や電話帳と同様に町民の暮らしに身近なハンドブックともなっています。

 費用(約八十万円)がかかることもあって当初は「議会に提出する予算書で十分ではないか」といった反対もありましたが、今では議員活動の参考書ともなっているそうです。

 町づくりにとって必要な情報を的確にしかも分かりやすく提供することで、住民一人ひとりが地に足のついた政策論議を重ねる。より優れた政策を選択した結果が住民の暮らしに反映される。ニセコ町の試みは「住民自治」の基盤づくりの好例といえます。

 ■「知りたいこと」を伝える

 大分県の臼杵市も、ニセコ町と同じような取り組みをしています。第二部・評価編で「サービス形成勘定」の取り組みを紹介しましたが、決算書の内容を徹底して分かりやすく市民に伝えようという試みです。それまでの決算書が「市民の知りたいことからかけ離れた内容だった」反省に立って着手しました。

 財政は一般の市職員でも分かりにくいものですが、臼杵市を株式会社に置き換え、「市民一人が持っている株価は九十六万円」といった広報紙の表現に、「日本一の市役所」を目指す同市の意気込みが現れています。

 二つのまちに共通しているのは、まちのリーダーである市長、町長が、率先して情報の公開から一歩進めた情報提供、情報の共有化に腐心していることです。
 二人のリーダーはともにインターネット上に「市長室・町長室」を開いています。どうぞ一度のぞいてみて下さい。

 臼杵市長
 http://www.jititai.com/
 ニセコ町長
 http://www5a.biglobe.ne.jp/~niseko/

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 第一部「財政編」、第二部「評価編」に続いて、「地方主権時代」のまちづくりについて、「情報」をキーワードに検証します。