212の21世紀〜マチは変われるか

第1部・財政編


 「リストラ行政」か住民自治か

 
 過疎化が進み、企業誘致はままならず、税収は落ちる一方、借金もぎりぎりまで抱え込んだ。高齢化が進み福祉サービスの充実や、文化施設の整備も進めなければならないが、貯金は底を付き、借金の返済に追われるばかり。そんな状況に追い込まれた市町村は、企業でいうと、倒産に近い状態といって良いでしょう。

 いわば会社更生法の自治体版ともいえる地方財政再建促進特別措置法(「財政再建法」と呼びます)の適用を受けることになった自治体は「赤字再建団体」と呼ばれます。赤字再建団体になると、自治省の完全な管轄下に置かれて、赤字解消のための措置が進められます。

 ■赤字再建団体への道

 歳入が歳出に追いつかない場合、「歳入欠陥を生じる」といいますが、歳入欠陥を生じた自治体、つまり「赤字団体」が即そのまま「赤字再建団体」となるわけではありません。

 自治体が税収などだけではやりくりできない場合、「地方債」という借金に頼るわけですが、この借金も青天井でいくらでもできるわけではありません。自治省は「起債制限」と呼ぶ一定のラインを引いており、市町村の場合は、普通会計決算の実質収支比率がマイナス二〇%(都道府県は五%です)に設定されています。

 自治体の財政にとってはこれが「デッドライン」です。借金したくとも許されない、さりとてほかに資金のあてはないわけですから、赤字再建団体の指定を受け、まず起債制限を解除してもらうところから財政再建の一歩を踏み出すことになります。指定を受けるためには再建計画を策定し、議会の承認を受ける必要があります。

 福岡県の赤池町は九七年度決算の実質収支比率がマイナス四二・六%と全国最大で、赤字再建団体として財政の立て直しに取り組んでいます。これら赤字再建団体では、赤字解消が最大の目標とされますから、使用料や手数料はほぼ同規模の自治体の水準以上に引き上げられ、職員の人件費や定数も抑制・削減されます。自治体単独で行おうとする施策も自治省の管轄下に置かれますから、赤字再建団体になったまちには地方自治そのものが存在しなくなるといっても良いでしょう。

 北海道では六〇年度に五十一市町村が再建団体となったのをピークに、七〇年代初めには再建が完了しています。実質収支の赤字団体は九七年度決算ではゼロ(全国では十三市町村)です。

 ■再建名目の切り捨て

 数字の上では、赤字団体、赤字再建団体は少なくなっていますが、実際には自治体の財政をめぐる問題は、深刻化しています。第一に財政難を短期的に切り抜けているのは、大量の地方債の発行によるところが大きく、財政健全化の根本的な対策が先送りされていることにあります。第二には、赤字再建団体に転落するのを避けるため、という大義名分で掲げられた自主再建策もまた、使用料や手数料の引き上げといった実質的な住民サービスの切り捨てや、職員のリストラを柱としたもので、公共工事優先・箱物主体の「土建屋行政」の見直しが片隅に追いやられている傾向が強い点です。

 九九年に入って東京都と大阪府が相次いで財政の「非常事態宣言」をしましたが、大阪府の財政再建計画では府立高校の授業料引き上げ、私学助成の見直しなどの教育費の切り詰めが盛り込まれ、東京都はシルバーパスの廃止・有料化など福祉切り詰めに動いています。これらの大都市はある意味で全国の市町村の「お手本」ですから、財政健全化の名の下に、福祉や教育の切り捨て・切り詰めが全国的に拡大することも懸念されます。

 ■問われる情報公開の実

 また、自治体財政の現実が、きちんと住民に知らされていないことも大きな問題です。まちの財政が厳しいという現状までは知らされても、なぜそうなったかという原因の説明は十分とはいえません。住民参加による再建を目指す以上、情報公開の門を開けておくだけでなく、積極的に情報を提供し、住民の声に耳を傾けながら危機突破の工夫を凝らす努力が求められていると思います。

 特に、自治体による情報の公開は、真の住民自治を実現するための「第一歩」といえます。情報公開は「公開することの民主性」が重要なのではなく、公開された多様な情報を基に住民自身が現状を知り、判断し、積極的にまちづくりに関わってこそ、意味があるのです。

(第1部・財政編 了)