ダイジェスト・リポート

「政策評価セミナー」

2001/03/13

 

 北海道市町村振興協会の主催により2001年2月27日、札幌市で開かれた「政策評価セミナー」の概要を報告します。

 基調講演を行った宮脇教授は、行財政論が専門で、国や自治体の各種委員を歴任、「『公共経営』のしくみ」などの著書があります。自治体改革の理論と実践を説いて全道を走り回っています。同振興協会の「市町村行政評価システム研究会」の座長を務め、講演は研究報告の形で行われました。

 研究会がまとめた報告書は、システム構築のための準備から組織・体制づくり、指標の設定、評価調書の整備までを解説した実践的なマニュアルとなっています。実際のシステム導入に当たっては、地域特性などを考慮した、その市町村独自の工夫や仕組みが必要ですが、「実践と試行錯誤」がキーワードといえそうです。行政評価が理論から実践の段階に移り、これらの研究成果が、道内各地のまちづくりに生かされることが期待されます。

【基調講演】

講師:宮脇淳北海道大学大学院教授
テーマ:市町村政策評価システムに関する調査研究

1 まず着手し、試行錯誤を

 政策評価の導入については、ともかく手を着けてみることが大事。市町村の中で試行錯誤することが必要だと思います。自分のまちを取り巻く環境や体質を自ら見つめ直すことであり、自治体組織内の意識を変えていく原動力となるはずです。

 政策評価の特徴は▼市場メカニズムの活用▼顧客主義▼成果指向・機能・権限の細分化・分権化〜にあります。また目的は、第一に個々の事業の執行状況を点検し、事業の優先順位を検討し、事業全般の見直しを行うことです。第二に、行政システム改革の一環として職員の意識改革を進めること。第三は、事業、政策ごとに目標を設定し、定期的な評価を行い、計画の進行管理のシステムを築くこと。第四は、施策や事業のプロセスや成果を住民に分かりやすく説明し、住民参加を促すことにあります。

 行政は必ずしもオールマイティな存在ではありません。政策評価を通じて行政が出来る範囲をきちんと住民に知らせ、判断してもらい、その結果と責任を行政と住民が共有することが重要です。

2 事業別予算導入が前提

 政策評価システムの導入に当たっては、▼住民の意向を適切に反映するものであること▼プロセスが明確であり、情報公開ができるものであること▼原理がシンプルで、時代の変化に対応して柔軟に変更できること〜が基本的な考え方となります。

 また、地域のビジョンでもある総合計画をきちんと掲げていないと、個別の政策、事業の評価と連動できないという問題が生じます。たとえば、多くの自治体が人口増加または維持を前提とした総合計画を立てていますが、現実とのギャップが大きく、評価システムとうまく連動できないことになります。

 予算編成についても、一般に行われている「目的別予算方式」では、予算が実際にどんな目的の事業に使われるか具体的に把握できません。このため、事業ごとに予算の要求から編成、査定、執行を一貫して行える「事業別予算方式」を導入することが必要です。

 政策評価システムは、プラン(立案)ドゥ(執行)シー(評価)のマネジメント・リサイクルを確立することにほかなりません。これにより、単に事業の優先度を考えるだけでなく、政策論議を高めることができるのです。先行導入した三重県では、議会が活性化されるなど、政策形成のプロセスを変えるきっかけともなっています。

3 アウトカム意識を高める

 事業がどのような成果をもたらしているか分野別に「まちづくり指標」を設定するケースも見られるが、その指標の多くがアウトプット指標のため、目標を達成できたかどうかを評価することが難しい。数値化は難しいが、これを試みることに意義がある。施策や事業をさまざまな角度から定量的に評価する過程で、アウトカム意識を高めていくことが第一段階となるでしょう。

 政策評価システムを導入する際、評価が目的化してしまうという落とし穴があります。たとえば、指標の担当部局に指標が集まらないという現象の背景には、提供するサイドにインセンティブが働かないということがあります。提供させる手段として評価と予算をリンケージさせる方法もありますが、評価はあくまで手段であり、どう行政を変えていくかに目的があることを忘れてはなりません。

 住民参加型の政策評価は、市町村議会の役割を問い直すことにも結び付き、政策論議の質とあり方を問い直すきっかけとなると思います。調査研究報告書は、政策評価の導入や充実を支援するマニュアルでもあり、システム導入の参考にしていただきたい。 


■情報共有で成果上げる住民参加
(パネリスト・岩城達己さん=白老町企画係長)

 「若手の職員を中心に研究活動を始め、2001年度から政策評価システムを本格導入できるところまでたどり着いた。地域集会施設の建設では、建設費やランニングコストを公開したところ、地域住民の側が建設費の一部負担を求め、維持管理・運営を住民が責任を持つことで施設が完成した。使用料収入が維持管理の原資となるから、住民が率先して生涯学習や交流の場として積極的な活用策を探り、結果として町内でも最も活発なコミュニティ活動の拠点となっている」

■数字で比較し、課題とのギャップを知る
(パネリスト・北川賀寿男さん=長浜市経営改革推進室主幹)

 「評価というのは数字で比較するということ。だれが見ても分かるようにすることで、現実と課題の間のギャップを知ることにほかならない。費用対効果を理論的に数字で説明するためには、コスト計算の仕組みを持っていることが必要ではないか。
 評価システムも評価表も、simple(簡素)で、easy(使いやすく)で、everyone(誰でも分かる)なことが求められる。そして目標を立て、議論の過程で数字の意味と全体構造を明らかにしていくことが大切だと思う」

■目標掲げステップ・バイ・ステップで
(パネリスト・古川俊一さん=筑波大学教授)

 「政策評価システムの導入は先進事例に学ぶことと、現場にある知恵を生かすことも必要。ステップ・バイ・ステップと目標をしっかり掲げて進むことを心がけるべきだ。これまで一般に行われてきた予算も計画も、そもそも成果ということを念頭に置いてこなかった。政策体系や予算の仕組みを組み替えることも考えなければならない。調査や研究ばかりして実際に手を着けない自治体もあるが、シンプルに基本を抑えて取り組む姿勢が必要だ」

■意欲を持って動き出せ
(パネリスト・星野克紀さん=北海道開発問題研究調査会調査部次長)

 「役所の中に意欲のある『青年将校』が2、3人いれば政策評価のシステムづくりは動き出せる。回り道もある程度覚悟して取り組む必要もあるが、途中で意欲を鈍化させない工夫や仕掛けも考えるべきだ。住民情報を収集しながら、行政情報とかみ合わせて政策情報に転換していくことが重要ではないか」

 

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