住民投票条例の可能性(3)
滋賀県・米原町の場合

2002/01/28

 

  情報共有し、多様な意見を集約

 住民投票制度の導入には慎重な首長が多い中で、滋賀県米原町の村西俊雄町長は2001年12月の定例町議会に常設型の住民投票条例案を提案しました。「町政の重要事項については住民投票でその意思を把握・尊重する」のが狙いで、永住外国人に対しても投票資格を与えるという画期的な内容のものです。

 ■合併パターンに論議噴出

 条例案提起の背景となったのが、市町村合併問題でした。県が示した合併パターンでは、人口6万人余りの長浜市を核に人口2万人以下の12町が寄り合う形で、2000年11月には湖南地域合併協議会(任意)も設置されました。しかし、圏域南部にある長浜市から距離のある北部の町には、「合併すると辺縁部として取り残されるのでは」という不安が根強くあります。

 米原町が開いた住民との懇談会などでは、住民からも県の合併パターンとは異なる意見が出されました。南に接する彦根市を核とした湖東地域の任意協議会への参加や、湖北と湖東の大合併論もあり、合併議論は枠組みだけでも難航の気配を見せています。また、周辺市町村も、江戸時代から「交通の要衝」とされる米原町の動静に大きな関心を寄せています。

 ■「町長判断絶対でない」常設型を提案

 頭を悩ませた町長の結論は、「町長の判断が絶対正しいとも言えない。住民の総意に沿った政策を取ることが地域の公益にかなう」というものでした。条例案の提案説明の中で、次のようにも述べています。

  1. 住民の将来の生活に極めて大きい影響を残す重大案件は、町長の裁量だけで決めるのでなく、住民の意思を直接確認することによって首長と住民、議会と住民との信頼関係の形成に寄与できる 
  2. 住民には決定権がなく首長や議会を拘束するものではないので、首長や行政の責任回避とはならず、主権者たる住民に対し責任を全うするための最も有効な手段だ。

 12月の町議会では、常設型の住民投票条例については時期尚早論が強く、賛成4反対10で条例案は否決されました。しかし、1月18日の臨時町議会で町長があらためて合併問題に限定した住民投票条例案を提案したところ、永住外国人の投票権とともに可決成立。この結果、初めて永住外国人も加わった合併の賛否を問う住民投票が行われることになりました。

 ■住民投票活用で問い直される議会機能

 住民投票条例の提案は90年以降、全国で合わせて約130件に上ります。その約80%が住民の直接請求で、核施設・廃棄物問題や吉野川可動堰など大型公共事業をめぐるものが主体でした。このうち条例化されたのは24市町村で、実際に行われた住民投票は13件と「狭き門」でしたが、ここ数年住民投票を積極的に活用しようとする動きも強まっています。

 市町村合併は、全ての住民の生活に関わり、しかも将来にわたるまちづくりの基盤を大きく変えていくものだけに、住民投票に対する消極的な考え方を見直すきっかけともなっています。こうした議論が高まるに連れて、首長と議会の役割と責任があらためて問われ、同時に住民の判断の前提となる地域情報・行政情報の共有が大きな課題となるでしょう。

 

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