続・市町村合併の論点14
広島県高宮町に見る住民自治組織の構築

2003/10/27
(オンラインプレス「NEXT212」139号掲載)

 

 <1>協働のまちづくりへ地域自治強化

 今後の地方自治の在り方について検討している地方制度調査会の最終報告が11月中旬にまとまる見通しです。ポスト合併特例法の自治体再編の流れをうかがう意味で、基礎的自治体の規模・在り方などと並んで、「住民自治・地域自治」のしくみづくりの方向性などが注目されます。

 ■諮問型と一線、地域内分権型目指す

 現行の合併特例法では、旧市町村の区域ごとに「地域審議会」を設置することが認められています(第5条の4)。設置するかどうかは関係市町村の任意で、合併市町村長の諮問に応じて意見を述べることができるなど、その機能は限定的で機会保障的な色合いが濃いのが特徴です。これは、行政区域の拡大によって住民の意見が合併市町村の施策に反映されにくくなるのではないか、という懸念を解消することで合併を推進するのを狙いとしたからです。したがって、住民自治組織とは性格が異なるといえるでしょう。

 これに対し、地方制度調査会が中間報告に盛り込んだ「地域自治組織」は、合併前の旧市町村を単位として地域共同的な事務処理を行うもので、住民自治と協働の考え方をより強く打ち出しているのが特徴です。

 調査会の最終報告が注目される一方で、合併をめぐる議論の中にこうした地域自治組織の考えを積極的に採り入れていこうとする動きも見られます。特に、集落を単位とした従来からある自治会や町内会組織を再活性化させるとともに、行政との協働によるまちづくりを目指す取り組みは、コミュニティ再生の試みとしても期待されます。

 ■単独維持、合併後にらみ独自プラン

 例えば、京都府北部の丹後6町による合併を目指す久美浜町(人口約1万2千人)は、合併後の町内の自治組織の在り方などについて考える「地域コミュニティ活性化検討委員会」を設置。現在71ある自治区の再編・強化と合わせて、住民と行政の有効な協働関係の構築によって「どんな集落でも元気に活動できる方策」の確立を目指しています。

 また、合併に慎重な姿勢を見せる岩手県田野畑(たのはた)村(人口約4500人)は、「地域内分権」の考え方を明確に打ち出し、行政と住民の役割分担によるまちづくり構想を2004年度からスタートさせる計画です。本来は地域主体で行うべき事業については、住民組織に権限と資金を併せて移譲することを基本に、事業の受け皿となる村内6地区の自治会の再構築を進めることにしています。

 2004年3月に「安芸高田市」としてスタートすることになった広島県高田郡6町の場合は、独自の予算と権限を持って地域自治の実績を重ねてきた高宮町の「地域振興会」をモデルに、新しい住民自治の確立を目指しています。広島市との大合併に埋没するのではなく、3万5千人規模で自治体内分権を徹底しようという試みに注目したい。

 <2>共助基盤に独自財源・権限

 広島県高宮町は、島根県と接した山間の農村で、過疎の進行により高齢化率は40%にも達しています。「高宮方式の町内分権」とも呼ばれる、8つの自治組織「地域振興会」を核としたまちづくりは、過疎の進行・高齢化が一つのきっかけであったようにも見えます。

 ■福祉・生産・スーパー経営と幅広く事業

 過疎化により市街地と集落を結ぶバス路線は減便・廃線となり、お年寄りたちは通院の足も奪われる。地域のスーパーでもあった農協の購買が縮小・統合され、ガソリンスタンドさえ撤退してしまう中で、住民同士が助け合い、知恵を絞らねば集落を守れない状況に追い込まれたからです。

 過疎に水害が追い打ちをかけられた住民が、結束を強めようとする動きに合わせて、1980年に初当選した児玉更太郎町長が、地域振興会の組織化に力を注ぎました。住民の声を行政に反映させることと、住民の力をまちづくりに生かすこと、つまりは「参加と協働」の考えを前面に、住民自治のまちづくりによって過疎と高齢化の波を跳ね返そうと考えたわけです。

 地域振興会は、40戸から500戸の世帯と地域内の組織・団体で構成され、活動範囲は福祉、教育・文化・スポーツ、環境美化・保全など幅広い分野にわたっています。さらには、老人クラブなどが参加した生産加工や観光農園の運営、女性グループが主力となった研修宿泊施設の運営や、スーパー、ガソリンスタンドの経営にまで及んでいます。

 ■具体目標掲げ、行政と住民が情報共有

 行政との関係は、第1に情報の共有と十分な意見交換・意思疎通によって具体的な地域と町の目標を明確にするところから始まります。それぞれの振興会の事務局には町職員か農協職員が加わり、役場職員と住民が連携して事業を展開します。議員は、議会で大所高所から町政を振興会の顧問としてまちづくりに参画するしくみになっています。

 振興会の活動資金は、町から総額年300万円の支援を受けるものの、これだけでは不十分なため各世帯が負担する年間千〜3千円の会費や、事業収入などで賄われます。高齢者の福祉対策の一環として経営するスーパーなどは、赤字を住民の出資で支えるといったこともあるそうです。
 こうした取り組みの背景には、自分たちの住む地域を力を合わせて守る、という意識と、独自の財源をもつことが、新たな知恵や工夫を産んでいることがうかがえます。

 <3>自治体内分権を新市で展開

 2004年3月の合併を目指す広島県高田郡6町は、これまでの協議の中で、新市「安芸高田市」のまちづくりの柱に「住民自治」を据えることとしました。このため、高宮町以外の5町においても、合併までに「地域振興会」を整備し、高宮方式の自治体内分権を市レベルでも展開する方針です。

 ■高宮方式広げ、代表で「まちづくり委」

 合併協議の過程では、特例法の「地域審議会」については、諮問答申機能に限られ、住民の活力を高めることにはなかなか結び付かない〜との判断から、独自のしくみづくりに目を向けました。その上で、「行政と住民が互いに汗を流し合って、地域を良くしていこうという住民組織」を設け、その代表で「まちづくり委員会」を構成することとしました。

 具体化に当たっては、地方制度調査会の最終報告などを見極めながら進める方針ですが、旧町の中にそれぞれいくつかの高宮型の地域振興会を組織し、「まちづくり委員会」との二層構造によって、行政と連携しながら住民自治を活性化させることになるようです。

 2002年9月に6町住民を対象に行ったアンケート調査では、「住民主体のまちづくりの重点施策」として「情報公開の徹底」はじめ、地域振興組織の確立と併せてリーダー・人材育成などの面での支援を求める声が多数を占めました。これらに基づき新市計画でも、地域拠点が連携する行政機能の整備や、ワークショップを活用した協働の取り組み、地域情報化の推進などの方策が盛り込まれました。

 

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