続・市町村合併の論点1〜北海道にて(1)
十勝野からの提言

2002/11/25
(オンラインプレス「NEXT212」102号掲載)

 

 1. 北海道の典型、過疎地の縮図

 北海道東部の十勝地方は、帯広市と19の町村からなり、圏域の総人口は約36万人。肥よくな十勝平野の恩恵を受けて、ビートや豆、ジャガ芋などの畑作と酪農を中心とした農業が盛んな地域です。しかし、帯広市周辺部に人口集積が進む一方で、多くの町村が過疎の進行に頭を痛めているのが現状です。

 市町村合併の論議は、北海道庁が示した8つの合併パターンに基づいて進められていますが、まだ協議会設置には至らず、全体としては停滞している観があります。その要因・背景としては、次のようなことが考えられます。

 (1) 広大な面積で、合併による行財政の効率化メリットが低い

  1自治体当たりの平均面積は約540平方キロメートルで、全国平均(約117平方キロメートル)の5倍近くにもなリます。人口1万人未満が15町村あり、その多くは財政力指数が0.2未満の過疎地域です。8つの合併パターンのうち4つが総人口3万人に届かず、「弱者連合」型の合併にメリットを見出せないのが現状のようです。

 (2) 都市近郊町村は農村基盤との二面性を持つ

  人口が増加している音更町と芽室町をそれぞれ核として周辺町村が合併する2パターンは、新市設立の可能性を持っています。しかし、この2町とも帯広市と合併するもう一つの「選択肢」があります。音更町の就業者の約33%が帯広に職場を持つなど都市化の一面で、農村としての基盤も根強く、行政も住民も明確な方向性を見出せないでいるようです。

 (3) 都市は消極姿勢、一極集中への懸念

  実質的に十勝圏域の中核都市である帯広市は、やや合併に慎重というか消極的な印象です。現在17万人の人口規模や都市基盤の整備状況から、積極的に周辺町村と合併する必要性や切迫感が薄いことと、十勝圏における一極集中に対する懸念が、その背景になっていると考えられます。特に、昭和の大合併を身近に経験した小規模町村の中には、「吸収」を警戒する見方があることも影響しているようです。

 (4) 財政論が中心で、住民の関心が高まらない

  合併をめぐる論議は全体として、地方交付税が先細る中で、国が進める推進策の「圧力」に押されながら、道庁が示した合併パターンの枠内で財政的なメリット・デメリット論に終始している印象が否定できません。住民フォーラムや出前講座などの取り組みも見られますが、地域の生活の将来像(特に希望を託せる将来像)が浮かび上がらないことが、住民を巻き込んだ議論に発展しない要因となっているのではないでしょうか。

 2. 閉塞感が小規模町村の不安増幅

 十勝地方の市町村が抱える悩みは、北海道の自治体の抱く苦悩とかなり重なり合っていると考えることができます。町村の財政力指数は0.20(全国平均0.33)と元々足腰が弱いところに、頼りの地方交付税が絞られ、公共事業も先細り。1次産業の足元が揺らぎ、過疎と高齢化が進行、「寄らば大樹」と考えても近くに頼れる存在もない。合併論議の停滞は、地域の閉塞状況の表れともいえます。

 国が進める市町村合併は、行財政の効率化に主眼が置かれ、本来の目的である地方分権=住民自治の推進の影が薄れ、強制合併の流れを加速させるような動きさえ見られます。

 まちづくりに取り組むための財源と権限が未だ不明瞭であることが、財政基盤の弱い北海道の自治体や小規模自治体の不安を増幅し、前向きの議論を萎縮させているように見えます。

 3. 地域・暮らしの将来像を描けるか

 国と地方の将来像を明確にし、目標実現のために必要なステップとしくみづくりは、国の責任であると同時に、自治体自身が考え、必要であれば制度や枠組みの変更を国に求めていくべきことだと思います。また、市町村は、合併を目先の損得論で考えるのではなく、もう一度冷静に地域を見つめ直し、住民の暮らしに関わる将来を展望することが必要でしょう。

 そのための4つの視点と2つの発想を以下に提起します。

 (1) 足元を見る

  特に小規模自治体では、人口減=過疎が地域の生産力を減退させ、生産力の減退がさらに過疎を進行させる。その悪循環が「心の過疎」をも生み出す結果になっています。悪循環を断つには、まず人口減を絶対的なマイナス条件と考えず、現状において住民生活を支える最小限の社会資本整備がどの程度の水準にあるのかを把握することが大切です。不足要素があるとすれば、今後充足可能なのか、住民ニーズと合わせて検証が必要です。

  人口減少に一定の歯止めをかけるには、地域の生産力を維持・発展させなければなりません。現実の生産基盤の再検証とともに、潜在的な地域資源の掘り起こしと活用の可能性を探ることも重要です。

 (2) 将来を見通す

  いわゆる「合併シミュレーション」の多くは、現体制の延長線上で、合併特例債の活用策をプラス要因とした「将来像」が描かれることが一般的ですが、そのために特例効果が薄れる10年、15年先以降が不透明になりがちです。合併という手法をいったん脇に置いて、地域の20年、30年、さらには50年後をどうイメージするか。どんなまちでありたいのか、どんな暮らしを求めるのかを、描いてみることも必要だと思います。

  その上で、目標を実現するためには今何が欠けているのか、これから何が必要なのか、どんな手法があるのかを考えてはどうでしょうか。

 (3) 広く俯瞰する

  次に、合併の枠を離れて、近接する自治体だけでなく、概ね共通した歴史的背景や産業構造に立つ圏域全体について、自分の地域との関連を見渡す視点も必要です。圏域内での位置付けと役割分担の現状を点検しながら、産業を中心とした圏域の総合的な底上げの可能性や、町村間あるいは町村と都市間の相互補完の可能性を、探るわけです。

 (4) 産業振興の新たな視点

  雇用の場をどう確保するかは、地域存続の絶対条件です。しかし、企業誘致などによる直接的な就業対策に頼るだけでなく、広域的な産業振興と地域の役割分担、またコミュニティビジネスや小さな産業創出など地域に見合った就業機会の確保にも目を向けるべきでしょう。

 4. 連携と住民自治の可能性を探れ

 ■2つの発想

 (1) 集中と分散の発想

  合併論議が行き詰まる背景として、核的な自治体がある場合には「小が大に飲み込まれる」との不安が大きい。規模が横並びの場合は、首長間の「覇権争い」的な要素も見られるようです。こうした無駄な議論を避けるためにも、オープンな場で中核的な都市と周辺町村との連携、近隣町村間の連携について、どんなメリットがあるかを追求することが必要だと思います。

  いずれのケースでも重要なのは、行政機能を集中することだけでなく、分散(分担)によるメリットも同時に追求する考え方です。地域医療を例に挙げれば、核都市に高度医療センター的な機能を集中する一方で、周辺町村では1次医療・予防医療を重点に体制を整備し、相互に補完し合うネットワークを組むといった手法です。観光や教育の分野でも、機能の分担と補完、ネットワークという考えが生かせるはずです。

 (2) コミュニティ自治の発想

  地域間連携を具体的に進める形として合併があるわけですが、「合併すれば末端に血が通わなくなる」という議論には疑問を持ちます。現に血が通っているのであれば、住民意思が行政にきちんと反映されているわけですから、血が通わなくなるような合併の道が選択されるはずがないからです。 

 ここで大切なのは、合併するかしないかにかかわらず住民自治の精神がしくみとしても実体としても生かされているかで、合併によって広域化されるなら、よりそのしくみを強固にすれば良いということです。むしろ自治体が大型化すればするほど、日常的な生活基盤を同じくするコミュニティ単位の住民自治のしくみが必要になってくるでしょう。

 ■「スーパー都市連合」構想

  以上の視点と発想に立って、十勝圏域を考えてみると、日本の食糧供給基地として農業を共通の産業基盤としていることが、最大の地域資源であり、生産力を高める潜在力も大きい。各町村は非常に個性的なまちづくりの蓄積があり、過疎地域においても定年帰農やグリーンツーリズムの振興などを通じて一定の定住人口の確保や交流人口の拡大が期待されます。

 唯一の都市である帯広市は、周辺町村の農業を背景に中核的な都市機能の整備が進んでおり、地政学的にも圏域の中心的な存在となっています。隣接町村の吸収では一極集中型のデメリットも予想されますが、集中と分散の発想に立っての広域連携では、圏域全体の底上げ効果をもたらす潜在力を持っていると考えられます。

 圏域全体で約1万平方キロメートルという広大さが壁にも見えますが、行財政の効率化を追求しつつコミュニティ自治を強化し、全体の生産力を高める「スーパー十勝連合都市」のような形も検討してみてはどうでしょうか。道州制や近隣政府の考え方を生かした、新しい地方自治体の在り方を示すモデルとなる可能性もあり、少なくともこうした視点と発想に立った圏域の見直しは、膠着状態にある合併(まちづくり)論議に新たな展開をもたらすのではないでしょうか。

 

 

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