「笑う鮭」
 
 ▼…今年5月のこと。大阪・阪急のデパ地下の店頭に、QRコードのタグを付けた鮭が並べられた。携帯電話のカメラで撮影するだけでさまざまな情報やサービスを受けることができるQRコードは、雑誌やホームページなどによく見かけるが、ついにこんな物にまで。試してみると、ケータイの画面には、水揚げの日付や漁獲した船名・船主名とともに、釧路・昆布森の漁場までもが表示された。
 
 ▼…記者時代に取材した旧ソ連とのサケマス漁業交渉のことを思い起こした。新海洋法の母川国主義基づいてソ連は、公海を回遊するサケは大半が自国の資源だと主張し出した。日本の漁民は「魚に国旗が付いているわけでなし」と反発したものの、やがて北洋漁業は先細り、北海道は基幹産業の一つを失った。昆布森も大きな打撃を受けた地域だが、コード付きのサケには漁業再生の戦略が込められている。
 
 ▼…親潮と黒潮が混じり合う昆布森沖は、魚のエサとなるプランクトンの豊かな海。5-6月にやって来る「時不知=トキシラズ」は、銀色の美しい魚体と飛びきりの味が特徴とされる。これを単にブランド化するだけでなく、安全・安心・信頼という付加価値を加えて差別化できないか。そんな思いから、生産者と加工業、流通に関わる者たちがネットワークづくりに動き出したのだ。
 
 ▼…消費者の信頼を得るためのカギが、QRによる情報の開示であり、商品に関わる者の責任の明示だった。今年は実験的な取り組みながら、1切れ(100グラム)千円という決して安くない切り身が飛ぶように売れた。トレーサビリティは、牛肉のBSE問題から注目を浴びたシステムだが、「笑う鮭」(商品名)は国旗ならぬ生産者らの顔が見えることの大切さを実証した。
(梶)
 
 
2006年9月1日金曜日
 
撮影:河野利明