▼…無責任男で一世を風靡したコメディアンの植木等さんが亡くなった。彼のふんするハチャメチャなサラリーマンが銀幕に登場した昭和36(1961)年は、日本が高度成長の時代に突入した時期と重なる。シームレス・ストッキングの発売が、物資不足に泣かされた戦後さえ遠く感じさせ、国民車・パブリカの発売は、マイカー時代の到来を予感させた。
▼…そんな時代を支えたサラリーマンは、日本人の勤勉・実直の代名詞とされたが、一人の「無責任男」の登場が、彼らを仰天させ、やがて喝采を浴びていったのだ。
ちょいと一杯のつもりで飲んで いつの間にやら はしご酒
気がつきゃ ホームのベンチでごろ寝
これじゃ体にいいわきゃないよ
分かっちゃいるけど やめられねぇ
▼…植木が歌って大ヒットしたクレージーキャッツの「スーダラ節」。この年施行の「酔っぱらい防止法」がうたう「節度ある飲酒」に対する反歌であり、成長を求めて前のめりにつんのめる時代に対する相聞歌でもあった。青島幸男の詞と植木の歌が醸し出すアナーキーな世界は、作曲家・萩原哲晶の自由奔放な曲調によってより過激さを増し、異彩を放ったといえる。
▼…半世紀を経た今、世の中はどう変わっただろうか。リストラ、非正規社員、フリーター、企業買収。「サラリーマンは気楽な稼業ときたもんだ」(ドント節)とはとても行かない。ベンチのごろ寝はホームレスにとって変わり、格差社会のひずみは広がるばかり。そんな様を無責任男・平均(たいらひとし)は、天国から見守る。
(梶)