工場とはいえ一階には店舗、カフェテラスなどを設けた複合施設で、出来立ての和洋菓子を味わえるばかりでなく、シラカバの薪を模した銘菓「三方六(さんぽうろく) 」の生産工程見学コースや、実際に菓子づくりに挑戦できる体験工房まで備えている。
  「澄んだ空気と水、豊かな実りをもたらす大地。周囲に広がる十勝の大自然が良い菓子を生んでいることを感じてほしい」と店長の冨川高明さんは話す。

 この日、工房を訪れていたのは日高・えりも町の東洋小学校の生徒と親、合わせて約70人。親子体験学習の候補地選びをした際に、最も人気が高かったのがここで、1年の石川綾乃さんは「何日も前から楽しみにしていた」と意気込む。
 体験コースはクッキーづくりやケーキの仕上げなどがあり、今回はチョコレートケーキの飾り付けに挑んだが「クリームを絞るのは簡単そうで難かしい」と2年の砂沢紘香さん。皆、いっぱしのケーキ職人気取りだ。

僕もパティシエ
 一方、自宅で何度か経験があるという4年の杉本孝輔君はなかなか見事な手つきで「いつもより上手くできた。おばあちゃんへのお土産にする」と満足そう。6年の杉本有沙さんも「食べるのがもったいない。家に持ち帰ってもう一度じっくり見てから家族で食べる」と笑顔を見せる。

 工房ばかりでなく、館内はどこも甘い香りと笑い声に包まれている。観光シーズンでもないのに、広い駐車場は車で埋まり、地元や近郊からの来訪者が多いことを物語っている。
 もともとは手狭になった工場の移転が主目的だっただけに、よもや年間60万人を超える人が訪れる行楽施設になるとは予想もしていなかったという。あまりの人気に定休日も設定できず、「結果的に年中無休になって… 」と冨川さんは笑う。

 菓子にはうるさい十勝っ子が相手だけに、限定商品や独自メニューも開発して販売する一方、コーヒーは無料で提供する心配りも。
 「工場直結」の店舗で約百種もの菓子を眺めていると、甘党ならずともケーキの1個や2個はついつい注文してしまう。「お菓子は人を幸せにする」と冨川さん。ショーケースの前には、いくつもの至福の表情が並んでいた。
  (佐々木 典寛/読売新聞旅ものがたり)
Sweetopia   音更・柳月スイートピア・ガーデン
 豊かな畑作・酪農地帯には、おいしいお菓子屋さんが多いものだ。上質で新鮮な素材が地元にあるのだから当然と言えば当然で、農業王国・十勝もまた「菓子王国」としての顔を持つ。
 それを象徴するかのように、牧歌的な田園地帯のまっただ中にデンと現れる「城」のような建物が「スイートピア・ガーデン」。地元の菓子メーカー「柳月」が2001 年、帯広市から隣接する音更町に移転オープンさせた本社工場だ。

田園に建つ菓子の殿堂