有珠の古文書が教えるもの

 ▼…有珠山が23年ぶりに噴火した。前回の噴火の際には社会部記者として現地取材に当たった。取材拠点となった旅館は、危険地域に指定され、命がけの最前線だった。北大の勝井教授らは報道陣に対しても再三にわたって「熱雲(火砕流)」発生への警戒を求めたが、効果はなかった。

 ▼…功名心からの突撃取材にブレーキをかけたのは、59人の犠牲者を出した1822年の「文政熱雲」に関する古文書だった。報道陣に対し、「読んでみたら」と水を向けた火山学者の狙いは当たった。そこに描かれた「地獄絵図」は、百の忠告にまさるリアルな内容で、剛胆記者をも震え上がらせたからだ。

 ▼…噴火予知・防災は、高度な科学技術とともに、地道な文献調査から成り立っている。現代の安全は、先人の犠牲の上に立っているともいえる。そうした意味では、今起きている災害を後世にどう伝えていくかは、行政やマスコミにとって非常に重要なことだ。

 ▼…住民の生命・財産を守る上で防災は、地方自治体の大きな役割の一つ。今回の有珠噴火の体験をどう共有するかによって、地域防災の考え方、取り組み方が見えてくるのではないか。「人類は自然災害を克服しようとして知恵を発達させ進化してきた」(寺田寅彦)のだから。

(18.Jun.2000 梶田博昭)