「北海道は日本列島の『上流域』」

 ▼…ニューヨーク市民1千万人の将来需要に見合う水処理施設の建設費は試算で70億ドルという。しかし、上流にある郡の貯水池流域保護を支援し、自然濾過能力を保全すれば、経費は10分の1で済む。市が選択したのは、後者の手法だった。

 ▼…一方、周囲を3千・級の山々で囲まれた山梨県早川町の話。ここでは22世紀(!)の文化創出を目指したさまざまな取り組みが住民と「下流域の人々」との共同作業で進められている。人間の生活圏は水の循環(水系)を基盤に成り立っている。上流に光を当てるところから、地域の文化を考えようと、という発想が原点だ。

 ▼…都市文明は、地方の水や緑、生き物たちと無関係には存在しない。水が育む森は、大気の浄化機能を持ち、地球規模で環境保全に重要な役割を果たしている。「きれいな空気」を川の流れにたとえると、全国の森林面積の21%を占める北海道は、日本列島の上流域とも言える。 

 ▼…総選挙を機に公共事業投資や税の配分をめぐり「負担する側(都市)」と「受益する側(地方)」の対立が鮮明になったとされる。しかし、ニューヨーカーや早川町民の視点を持てば、問題の見え方も違ってくるのではないか。

(18.Aug.2000 梶田博昭)