「右手にスコップ、左手に缶ビール」

 ▼…「富士の白雪朝日に溶けて、溶けて流れて三島にそそぐ」。「農兵(ノーエ)節」で知られる静岡県の三島市は、歌のとおり霊峰と清流のまちだった。駅近くのせせらぎでは子供たちが水遊びに歓声を上げていたが、一昔前はごみと汚泥の川だったというから驚く。

 ▼…もっと驚かされたのは、一帯の公園や清流を整備したのは、三島の住民であり、企業であったと聞かされたからだ。行政がやると2500万円かかる公園整備を、150人ほどの住民が4回の総出の作業でやり遂げてしまった。費用はたった5万円だと聞き、さらにびっくり。

 ▼…「グランドワーク」と呼ばれる英国式の地域づくりの手法をお手本にしたものだが、「子供のころの原風景、原体験を再生したい」という住民の熱意と目的意識が、起爆剤となった。合言葉は「右手にスコップ、左手に缶ビール」とか。

 ▼…税金と借金で作ったお仕着せの施設より、本当に必要な、愛着を感じる空間を。役所や議員の力を頼む地縁型町内会から、知恵と力を集めた自立型コミュニティへ。地方自治や公共事業、財政危機をめぐる議論がかまびすしいが、三島市民はこれらの問題に対して、新しい解決の道筋を指し示している。

(25.Aur.2000 梶田博昭)