「助役を置かない条例」のしたたかさ

 ▼…長野県の田中康夫知事がなにかと注目を浴びているが、前例無用・無手勝流の地方行政の先鞭を付けたのは、群馬県太田市の清水聖義市長ではないだろうか。95年の初登庁のその日、基礎のパイル打ちが始まろうかという段階の新庁舎建設工事に待ったをかけた。当然議会からは総攻撃を受けた。

 ▼…結局、21階建て、300億円の計画だった豪華庁舎は、12階建ての機能優先型の庁舎に取って代わり、建設費は半分に収まった。動き出したら途中で止まらないはずの公共事業神話が、物の見事に打ち砕かれた。そして、清水市長が粉々にしたのは、行政にはびこっていた既成概念そのものだった。

 ▼…太田市には助役がいない。「助役を置かない条例」を制定したからだ。市長が余分に働いて、年間2千万円ほどの経費を浮かせる、というのは「おまけ」。狙いは各部局の権限を強化して、機動力を発揮させることにある。部長全員が助役のショートカット行政といったところか。

 ▼…一見無謀とも思える市長の試みが、新しい道をかき分けていくのはなぜだろうか。その秘密は、情報公開にあると思う。太田市の行政審査会は市民6人で構成され、行政に関して知りたいことは何でもオープンにされる。隠す物がない裸の王様だからこそ、行政が住民、議会と真正面から向き合うことができる。これは「しなやか」というよりは「したたか」と呼ぶべきか。

(15.Dec.2000 梶田博昭)