ヘッチヘッチー論争

 ▼…登山家でありユネスコの世界遺産制度にも貢献したデビッド・ブラウアさんが亡くなった。3年前に日本を訪れた際には、諫早湾の干拓や長良川の可動堰問題に強い関心を示し、ダイオキシン汚染にはなんとか解決の糸口を探ろうとした。日本の環境保全活動に大きな影響を与えた人だった。

  ▼…国際的な環境団体・シェラ・クラブの代表も務め、米国グランドキャニオンのダム建設反対運動のリーダー役でもあった。1892年に創設されたクラブは、会員200人足らずのハイキング同好会的な組織だったが、ヨセミテ国立公園内のダム問題をきっかけに米国有数の環境団体に成長した歴史を持つ。  

▼…渓谷の名前から「ヘッチヘッチー論争」と呼ばれたダム建設の是非をめぐる論議は、地元カリフォルニアにとどまらず全国規模に拡大した。シェラ派の反対論に対して、推進派は「自然保護は自然を人間が有効に利用し続けるために必要なのだ」と主張した。水不足に悩まされていたサンフランシスコ市民は、建設を望んだ。  

▼…米国を二分した論争は10年に及び、国会の票決により保護派は敗北した。長良川問題などと対比して驚くのは、賛否の論議が徹底した公開の場でねばり強く続けられた点だ。ブラウアさんは「地球が奏でる素晴らしい音楽を理解するために人間は創造された」という言葉を残した。理解のための時間と議論を惜しんではならない。

(26.Mar,2001 梶田博昭