喜劇と悲劇の大どんでん返し

 ▼…チャップリン映画にこんな場面がある。酒浸りの生活を改めるように涙ながらに懇願する妻。むこう向きのチャーリーが、徐々に、そして激しく肩を震わせる。字幕が入って「あなた、ようやく分かってくれたのね」。くるりと振り向くチャーリー。その手には、しっかりとシェーカーが握られている。何度見ても涙が出るほど笑えるシーンだ。

  ▼…「物事は一面的に見ると、本質を見誤る」という教訓を、見事なギャップで表現している。それと同時にチャーリーは、裏をひっくり返してみなければ、「見せかけ」が「本質」としてまかり通りかねない危険が、この世にはいくらでもあることを、言おうとしたのかも知れない。

  ▼…さて、世は情報公開時代。北海道庁のHPを開いてみたら、前日の知事の記者会見の全文と映像が飛び込んできた。そのテキスト版で知事が記者の質問に対して「私を挑発してるんですか」と問い返している。しかし、映像版ではカットされ、不穏当とも思える知事発言の真意はつかみきれない。

  ▼…IT時代に氾濫する情報は、全てを語っているようで、実は何も語っていないのではないか。その意味では、情報個々には「見せかけ」ともいえる。膨大な量であるだけに、ひっくり返せば返すほど、チャーリーの素顔がかすんでいく。マスコミが本質を語ることまでは期待しないが、せめてニュアンスだけでも伝えて欲しい。   

(9.Apr.2001 梶田博昭