満開の桜の下のお登勢

 ▼…船山馨の小説「お登勢」が、連続テレビドラマとしてNHKで放映されている。武家のリアルな暮らしぶりや、森総理のお好きな「滅私奉公」とはどんなものだったかをうかがわせるストーリー展開が面白い。勤王か、佐幕か、時代の変節を誰もが固唾を飲んで見守り、そして飲み込まれていく様は、価値観が大きく変化しつつある現代とも通じるものがある。

 ▼…お登勢が奉公した稲田家一族は明治3年(1870年)、淡路島を離れ日高の静内に集団入植した。新天地とはいえ、刀を鍬に代えての開墾作業は過酷で、誰もが故郷に逃げ帰りたい思いにかられた。史料には「百計多く蹉跌人心大いに沮喪」と記録されている。

 ▼…挫折寸前の危機を乗り切り、新たな町づくりの気運を引き出したのは、稲田家の若き当主・邦植のリーダーシップだった。明治7年の支庁引継書には「自立の産に着き一区の富境と相成候、士族は自ら廉恥を知る、教ふれば北海道中の美風俗となるべし」とあり、開拓のモデルケースに取り上げられた。

 ▼…邦植のリーダーシップとは、静内を「荒れた入植地」ではなく「新たな故郷」と愛し、自ら土を耕す「率先垂範の行動」にあった。その地に再び桜の季節が訪れようとしてる。今年は口蹄疫問題の余波で、「お登勢の碑」が建つ二十間道路の桜祭りは自粛ムードとか。ならば、桜を楽しむ代わりに、静かに歴史のロマンに浸るのもいい。   

(23.Apr,2001 梶田博昭