石油を水に変えるマジック

 ▼…「漢倭奴国王」の金印が出土した福岡県・志賀島に細く伸びる「海の中道」。付け根辺りは「奈多の松原」と呼ばれ、美しい景観が広がる。その一角で国内最大を誇る海水淡水化施設の工事が進められている。2005年度の完成予定で、日量5万トンの水を供給する。水不足に泣かされてきた博多湾一帯の住民にとっては、「恵みの水」というわけだ。

  ▼…淡水化には最新の技術が生かされ、快適な暮らしが実現する。しかし、良いことづくめではない。九州大学の楠田哲也教授らの研究によると、上水道の水処理コストが1・当たり219円なのに対して、淡水化の場合は600円もかかる。浅井戸方式(22円)に比べると、約30倍ものカネを食うというのだ。

  ▼…楠田教授らは、施設を作るときの材料も含め、保守から最後に壊すまでのシステム全体の消費エネルギーを計算してみた。LCE(ライフサイクルエネルギー)と呼ばれるもので、淡水化施設は上水道のなんと約5.4倍。「夢の技術」の正体は実は、大量の石油を燃やして水を生み出す「現代の魔法」だった。

 ▼…見方を変えると、私たちは地球環境を二の次にして生活の利便性を優先していることにもなる(福岡市民は節水ごま利用など工夫も凝らしている)。また、水は、資源=エネルギーそのものであることも良く分かる。魔法だけに頼らず、水の循環・再利用や広域的な視点に立った流域マネジメントにも知恵を注げば、この白砂青松も未来に引き継げる。

 (5.Nov,2001 梶田博昭)