TOKIO「田ごとの月」をめでる

 ▼…長篠の古戦場から四谷の千枚田(愛知県鳳来町)へ。ちょっと欲張ってレンタカーを走らせた。道はどんどん狭く、険しくなる。心細くもなったが、眼前に現れた棚田に圧倒された。「日本のピラミッド」という表現にもうなづけた。勾配1/4。4メートル進むごとに1メートル高くなる。コンバインはおろか、小型耕耘機さえ入らない。

 ▼…手植え、手刈り。反収420キロほどだから生産性は低く、担い手の高齢化とともに、農業経営が難しくなるのも確かだ。ここの棚田も、97年に保存会が組織され、都市の市民グループの援農も受けながら、かろうじて美しい景観と生産力を維持してきているのだという。

 ▼…棚田は過疎の象徴だが、一方で過疎地が潜在的に有する価値の象徴にも思える。食料の生産にとどまらず、水資源を蓄え、浄化し、災害防止にも役立つ「緑のダム」としての機能を持つ。独特の景観とともに伝統文化と結び付き、やすらぎを与える「癒しの空間」でもある。

 ▼…そう考えると、消えゆく炎を細々と守るのではなく、残して生かす道を求めるべきではないか。経済性だけではない、プラス・アルファの価値を。TOKIOの「鉄腕ダッシュ村」人気は、都市の若者たちがその価値に気付き始めていることをうかがわせる。千枚田に浮かぶ「田ごとの月」は、どれも美しい。 

(25.Mar,2001 梶田博昭)