日本刀あれば憂いなし

 ▼…憂国の文学者・三島由紀夫は、「行動学入門」の中で、陣地戦における「最後の50mの空白は歩兵戦術の最大の神秘」と書いている。自軍の支援射撃までは綿密な計画を立てられても、一線を越えての突撃では、合理的計算と計画は行き詰まり、それを打破するのは非合理的な精神力しかないのだ、という。

 ▼…精神力を支えるものとして三島は「拳銃では不足」とし、「50mを突破するものこそ日本刀にほかならない」とも断じている。そんな三島流兵法に従えば、今国会で論点となっている有事法案では、陣地構築に加えて、自衛隊員に日本刀を提げさせることも考えねばならない。

 ▼…堅固な陣地を築けば突撃は不要とも思えるが、兵法では専守防衛に勝ちなし。空間の間合いは保てても、時間の間合いが攻撃側に力を増強させる猶予を与え、守る側は補給を前提に力を維持するのがやっとだからだ。うーん。やはり、日本刀を振るわずにはいられないか。

 ▼…「行動学入門」は、軟派の男性誌に連載されたエッセーを再編集したもので、学生運動の熱が冷め、どこか覇気を失った若者に向けたメッセージでもあった。そして3部構成の一作が「おわりの美学」。あとがきは1か月後の自決を予告したと話題を呼んだが、その内容は現代においても暗示的に思える。

(20.May,2002 梶田博昭)