▼…東京・墨田区の地獄坂通りから路地に足を踏み入れる。札幌の整然とした街区に慣れた者にとって、そこは迷路の世界だ。しばらくさまよい、お目当ての路地尊(ろじそん)にようやく出会った。手押しポンプで少年がペットボトルに水を汲んでいく。金魚の水槽用だという。

 ▼…路地尊は、近所の雨樋を伝って集まる雨水利用の防火貯水槽で、時代劇にも登場する「天水桶」の現代版。元々は住民のアイデアだが、墨田区が雨水利用の助成制度を設けて以来、百か所を超えている。聞けば両国の新国技館の地下には1千トンの雨水を溜めるタンクがあり、トイレの水洗や空調に利用しているそうだ。

 ▼…日本人が1人1日平均使用する生活用水は約33リットル。30年前に比べると2倍に増え、約60リットルのアフリカの5倍にもなる。その用水確保を巨大ダムに頼る一方で、都市部に降った雨は下水管を伝って集められ、海へ。はげ山でも5%ほどある保水力は、アスファルト砂漠ではゼロに近い。

 ▼…雨水とし尿などの汚水を同時に流す合流式下水道が主体の東京では、都市型洪水とともに海の汚染が深刻化している。国土交通省は分流式の導入や一体的な流域整備などに乗り出したが、後手後手の感がぬぐえない。ダムや下水道のみに依存せず、天水の恵みを暮らしと結び付ける路地尊の発想も必要だ。

(22Jul,2002 梶田博昭)