エニグマの尻尾

 ▼…第2次大戦中の米陸軍空挺歩兵部隊を描いたスティーブン・スピルバーグ監督のTVドラマ「バンド・オブ・ブラザーズ」が、日本でも話題を呼んでいる。エリート部隊はノルマンディー作戦で大活躍するが、これを陰で支えたのが、英国の暗号解読チームだった。

 ▼…ドイツの暗号機「エニグマ」は難攻不落とされていた。キーを打つ度に暗号化コードが自動的に変わる複雑さを持つ一方で、平文に戻すのは簡単な操作で済んだ。一種のコンピュータだが、これを打破したのも、コンピュータの原型だった。

 ▼…とはいえ、解読のきっかけは、電文の頭に毎回付けられた決まり文句だった。本来は慎重に言葉を変えるべきところだが、暗号の担当者は気にも止めることなく繰り返し、しっぽを捕まれた。あまりにもイージーなミスを誘発した最大の理由は、完璧な「謎(エニグマ)」と考えられた暗号機自体にあったのだ。そして、担当官のごく人間くさい過信に。

 ▼…連合軍は、暗号解読に難航していることを装うことで、ドイツ軍の油断を誘い、「砂漠の狐」と恐れられたロンメル将軍さえ追い詰め、ついに歴史も変えた。半世紀経た今、住基ネットにおいて、精緻なコンピュータと誤りを犯すことのない人間によって「謎」が保持されることを願わずにはいられない。

(29Jul,2002 梶田博昭)