陛下の出張報告書

 ▼…今上天皇が皇太子時代に北海道東部を行啓した際、随行記者として面白い場面を目撃した。殿下は夜明けとともにサロマ湖畔のホテルを抜け出し、胴長姿で湖に入れられた。手元のおぼつかないお付きの者に代り「どれどれ」とばかりに手網を操った。従者よりはるかに腰が据わり、それはプロの手仕事だった。

 ▼…公務の合間を縫ってのいわば「お忍び」だが、そんなシーンを忘れかけたころ、サロマで見つけたのは新種のハゼ〜というニュースが宮内庁から流れてきた。殿下は200海里時代の余波に苦しむオホーツク漁民を力づけるだけでなく、生物学者としても確かな足跡を残したのだ。

 ▼…しかし、私は、ハゼの発見が偶然とは思えない。恐らくは、訪問先の住民の状況を十分下調べしたと同様に、湖についても丹念に事前調査していたに違いない。そこには、資料の収集、推測と仮説、さらに現地での検証というデスクワークとフィールドワークを連携させた科学者の手法が透けて見える。

 ▼…私達の出張や視察に重ね合わせるのは、恐れ多いが、出張自体が目的化し、視察という名の大名旅行がまだまかり通ってはいないか。議員の視察旅費が監査対象となること自体問題だが、視察の成果こそが問われるべき。せめて市民に公開を。陛下の論文は26編にも上っている。

 (12.Aug,2002 梶田博昭)