「地方他治」 ▼…「幼保一体教育」のモデルとして知られる岩手県藤沢町を訪ねた。幼稚園と保育園をつなぐ渡り廊下は、長さ4メートル。制度は文部省と厚生省の縦割りかも知れないが、子供を育てる上でその間の壁が無意味なことは、廊下を自由に行き交う子供たちの歓声が、よく物語っている。 ▼…佐藤守町長は、こう言う。「大事なのは制度ではなくて、住民の視点。国の言いなりになるのは、地方自治ではなくて地方他治」。医療と福祉の複合施設を建設する際には、それぞれの窓口が異なる県の縦割り行政の虚を衝いて、住民の願いを実現した。この「したたかさ」は、いったいどこから来るのか?。 ▼…そんな疑問を解きほぐすヒントに、黄海(きのみ)集落で出会った。公民館の脇に立つ歴史絵図。950年前、一帯を治めた豪族・安倍貞任が、鎮守府将軍・源頼義率いる官軍を追い落とさんとする様が描かれていた。歴史上ただ一度だけ、東北が中央に勝った「黄海の合戦」の1シーンだ。 ▼…「黄海」の名は、北上川の氾濫で度々、田畑が泥に埋まったことに由来する。それでも土地を愛するからこそ、人々は助け合い、工夫し合った。中央の権力に盲従しない地方の誇りと、住民同士の固い絆。秋風に揺れる「黄金の波」を眺めながら、「したたかさ」の秘密は、その辺にあるのかも知れない、と思った。 (9.Sep,2002 梶田博昭)
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