リストラされた町名

 ▼…NHKの大河ドラマ「利家とまつ」の舞台ともなっている金沢市で先日、「町名復活フォーラム」という催しが開かれた。加賀藩以来の「主計(かずえ)町」の名を30年ぶりに取り戻した住民らがパネリストとして出席した。復活までの苦労話とともに、しみじみ語る。「町名は住む者にとって心のふるさとだった」。

 ▼…1962年制定の「住居表示法」は、街区を単位とした「合理化」が目的で、全国から多くの町名が姿を消した。その実験都市となった金沢市では、520もの町名がリストラされた。しかし、99年の主計を皮切りに、「飛梅(とびうめ)」「下石引(しもいしびき)」と復活が相次いでいる。

 ▼…とはいえ、復活は容易なことではない。町名が変われば表示や印刷物などに余計な費用がかかる。「町名など単なる符号」と考える者には煩わしいだけ。そんな壁を打ち破ったのは、町名に込められた地域の歴史や文化に対する住民の誇りと、伝統へのこだわりだった。

 ▼…町名復活は、住民自身が地域を見直し、街の景観や風格など大切にすべき「宝」を守り、生かす動きへと発展している。観光の活性化も、大河ドラマのお陰だけではないのだ。「福祉も環境も教育も、コミュニティの拠り所は、詰まるところ隣近所にある」。山出保市長の言葉は、まちづくりの要諦を突いている。

28.Oct,2002 梶田博昭)