正義のインサイダー

 ▼…改革派知事の一人・片山善博鳥取県知事は、庁内の不正常・違法行為に関する職員の通報を封書と電子メールで受け付ける「業務改善ヘルプ・ライン」を開設した。誹謗・中傷を除いて行政監察室が調査する、いわば「内部告発制度」。「組織の病は芽のうちに摘む」(片山知事)のが狙いとされている。

 ▼…思い切った政策だが、危うさも抱えている。内部告発が情報の「裏チャンネル」の性質を持つ以上、善意と悪意の境界は極めてあいまい。一般に内部監察には組織防衛的な一面もあるから、病が重いほど問題が潜在化することもある。そして、告発者を完全に保護するバリアなどはない。

 ▼…映画「インサイダー」で、ラッセル・クロウ演じる内部告発者は、苛烈な脅迫を受け、家族をも失う。正義のカードは、ひっくり返すと裏切りのカードでもあるのだ。現実の世界では、雪印食品の偽装牛肉事件を内部告発した冷蔵会社が、廃業という手痛いしっぺ返しを受けたことが思い起こされる。

 ▼…これは駆け出し記者時代のほろ苦体験。告発を受けてある公益法人職員の多額横領事件をすっぱ抜いたのだが、情報提供者が実は黒幕だった。その幹部職員逮捕は競争相手に逆スクープされ、ご褒美は帳消し。裏情報は玉石混淆の世界であり、見極める目も問われる。

(9.Dec,2002 梶田博昭)