トンネルを掘り続ける理由

 ▼…北海道積丹半島の突端・神威(かむい)岬近くにある念仏トンネル。全長約60m、幅と高さ約2mで、1918(大正7)年に完成した。途中で左、右と二度折れ曲がっており、日中でも内部は真っ暗だ。恐る恐る手探りで岩壁を伝った先に、ぽっかりと広がる岬の景観が、積丹の魅力を2倍にも3倍にも引き立てた。

 ▼…工事は両端から手堀りで進められた。やがて中央で20mもずれているのに気付いた。元々、海岸沿いの岩場を伝う小道があるにはあった。行き来するのは岬の灯台関係者だけだから、今なら「建設見直し論」が浮上したかも知れない。それでも、トンネルは掘り続けられた。

 ▼…どんなに大変でも完成を目指したのは、灯台長の妻子らが旧道で高波にさらわれる事故があったからだった。しかも灯台は、当時盛んだったニシン漁などの産業や生活に欠かせない存在だった。真っ暗な欠陥トンネルでも、希望の灯りにつながる道だったのだ。

 ▼…「念仏」の名は、犠牲者の慰霊に由来し、念仏を唱えながら進むことで、暗闇での鉢合わせを避ける狙いもあったらしい。現代の地方道路建設は厳しい逆風下にあるが、肝心なのは、暮らしと産業に直結し、知恵と工夫を凝らした道路であるか。単に「均衡ある発展」を叫ぶのでは、空念仏を唱えるのと変わりない。

(16.Dec,2002 梶田博昭)