小○ものは小○

 ▼…断崖続きのリアス式海岸に面した岩手県田野畑(たのはた)村。宮沢賢治の童話から「カルボナード」の愛称が冠された三陸鉄道の駅舎は、メルヘンの世界の入り口のようでもあった。この地が150年前に、日本最大とされる三閉伊(さんへい)一揆の舞台になったことなどは、ちょっと想像し難い。

 ▼…一揆は、盛岡藩の過酷な徴税に耐えかねた農民が立ち上がり、総勢1万6千人にも膨れあがったという。面白いのは、藩政不信が極まった彼らが、境界を超えて仙台藩に対し、藩主更迭と仙台藩への領地換えを求めたこと。これは「リコール運動の元祖」といえるのではないだろうか。

 ▼…当時は「お上」に楯突くことは御法度。従うか田畑を捨てて逃散(ちょうさん)するかのどっちかだった。その田野畑村が、新年度から国や県から求められる「押し付け事務」の処理を返上する方針を掲げた。非効率で経費負担が交付金に見合わない種牛検査の手数料徴収事務など12件が該当するという。

 ▼…上机莞治村長の弁。「いらないものはいらないと声を上げないと真の地方分権にならない」。そういえば、三閉伊一揆の旗印は「小○」。つまり「困る」。「困るものは困る」という声を上げることは、確かに地方(住民)の自立の第一歩だ。歴史的な一揆は、血を流すことなく成功した。 

 (17.Feb,2003 梶田博昭)