スロータウンの落ち穂拾い

 ▼…バルビゾン派の代表作を集めた絵画展に足を運んだ。会場は、完成間もない札幌・JRタワービル。ビル建設に携わった友人から前日、最先端の建築技術を駆使した舞台裏の話を聞いたばかりだった。そのためか、キャンバスに描かれた田園風景や働く農民の姿に、大都会のシンボルとは異質の「眩しさ」を感じた。

 ▼…「種をまく人」で知られるジャン=フランソワ・ミレーらが集ったバルビゾン村は、パリから60キロほど南の寒村。日本では幕末から維新にかけての時期で、パリ近郊の都市化の波から取り残されていた。訪れた新聞記者は、「落ち穂拾い」に聖書の世界を見た、とルポに記した。

 ▼…都会の人々には、画家たちの暮らしが、新鮮で眩しく映ったらしい。ところが、我が家を「別荘」と呼ばれたミレーは、「こんな藁葺き小屋がねえ」と苦笑した。そして、あるがままの自然や何気ない家族の会話、働く喜びといった「小世界の日常に心は晴れ晴れとし、生きていて良かったと感じる」と語ったそうだ。

 ▼…現在のバルビゾン村は、農家減少の一方で別荘が立ち並ぶなど変容が進んでいるという。都市のスピードに飲み込まれるのなら、少し寂しい。日本では、田舎暮らしを見直す「スロータウン構想」が動き出したが、落ち穂や藁葺きの中に潜在価値を見つけ出せるか。これがカギ。

 (14.Apr,2003 梶田博昭)