There is still time... brother

 ▼…ちょっと遠い青春時代の思い出。銀幕にはグレゴリー・ペックがいた。「ヒューマニズム」ってどんなものか。劇中の彼に教えられたような気がした。弁護士や新聞記者といった職業に、憧れたりもした。どこか不器用な雰囲気が、なぜかカッコ良く見える俳優だった。

 ▼…初期の主演映画「渚にて」(1959年)は、数多い名作の陰に隠れがちだが、反戦映画の中では五つ星を付けたい。冷戦時代における「核の悲劇」を描いた作品にもかかわらず、戦場や流血シーンがほとんどない。むしろ日常的な街の情景や淡々とした彼の演技が、恐怖の根源を浮き彫りにしていく。

 ▼…冷戦時代は幕を降ろしたが、核の脅威は未だ去らない。「渚にて」のリメーク版「エンド・オブ・ザ・ビーチ」(2000年)の登場が、暗示的だ。ドラマ展開の鍵を握る小道具がモールス信号からEメールに置き換えられたためか、映画としてはやや味気ない出来となっているが―。

 ▼…最近の変わった「核ネタ」ものでは「タイムトラベラーきのうから来た恋人」(1999年)が面白い。核戦争が起きたと信じた家族がシェルターから35年ぶりで地上に戻るという設定のコメディながら、「国家の陰謀」をちらり風刺している。ペックには「アメリカの良心」を21世紀バージョンで演じて欲しかった。

(16.Jun,2003 梶田博昭)