正射必中

 ▼…Hokkaido Young Archery Club。戦後の武道禁止令によって弓を引けなくなった学生が、練習再開の便法としてGHQに設立を申請した。1か月後の回答は「それなら米国でも多くの市民がスポーツとして楽しんでいる」。団体は認可されたが、施設は進駐軍のジムに充てられ、使用許可は得られなかった。

 ▼…母校の弓道部が創部100周年を迎え、先輩OBからそんな思い出話を聞いた。空白の3年間だが、当時の学生たちの情熱が伝わってくる。がらくたを寄せ集めて道具を作り、泥まみれになって道場を築く。無から有を生み出すエネルギーは、日本の戦後復興と相似形にも見える。

 ▼…時代は大きく変わって、竹の弓はカーボングラス製となり、矢はジュラルミンに。それでもスポーツとしてはマイナーと見られがちで、2年前に札幌に完成した道立総合体育センターの弓道場も、弓界挙げての要請でようやく実現した。交渉では50年前とは逆に、大衆性ではなく武道としての特質を訴えかけたという。

 ▼…確かに国際化により柔道は万国で親しまれているが、伝統や文化の面では本来の姿が揺らいでいるようにも映る。競技としてのみ進化すれば、弓道はArcheryに変容するほかない。GHQが武器ではなく精神性を重視した意味を問い直せば、スポーツはまた違ったものになる。

(1.Sep,2003 梶田博昭)