カササギたちの家

 ▼…新潟県十日町市など6市町村を舞台にした「越後妻有(つまり)アートトリエンナーレ」が幕を閉じた。2日間の駆け歩きで出会った作品は、全体の5分の1に過ぎないが、アートの持つエネルギーは十分に実感できた。しかも、美術館で感じるそれとは異質で、アートディレクターの北川フラムは「地域と都市の共振」と表現した。

 ▼…津南(つなん)町上野集落に建つ「かささぎたちの家」が象徴的に思えた。韓国人作家の金九漢(キム・クーハン)は、この地に半年とどまって何を表現すべきか煩悶し葛藤したという。答えは天の啓示ではなく、上野の土と人々の心に触れる中から見えてきた。アート自体がエネルギーの源泉ではなかったのだ。

 ▼…土と火と木を素材とした陶の家の周りに、集落の人々の手で水路がめぐらされ、花が植えられた。都会からやって来たボランティアの若者も力を貸した。やがて「家」は上野の景観に溶け込み、もはや一個の作品ではなくなっていた。都会対田舎、若者対年寄り、そして民族間の垣根もいつの間にか消えていた。

 ▼…6市町村が負担する事業費は約3億円。住民の中に多額の税金を充てることに異論もあるそうだが、忘れかけた田舎の価値に再び光を当て、新たな地域の可能性を探るきっかけとして、芸術祭の意義は決して小さくない。3年後の開催だけでなく、挾間の2年間の妻有に注目したい。

 (16.Sep,2003 梶田博昭)