名前とアイデンティティー

 ▼…アイヌ語由来が多いため北海道には難読地名が多いが、先日ぐるり回った福島県にも結構ある。智恵子抄に登場する「安達太良山」はじめ「勿来」「会津坂下町」「檜枝岐村」といった具合。民謡がなければ「磐梯山」も難解の部類に入る。スキー場で知られる「猫魔」は読めるにしても、なんとも奇妙なネーミングだ。

 ▼…蔵とラーメンで有名な喜多方市は、元々は会津との位置関係を指す「北方」に由来する。明治8(1875)年に北方地方の数ヶ村を統合した際に「喜び多き方」と充てて町をつくった。「北」には「街外れ」の意味もあったから、住民の洒落っ気と同時に心意気をも感じさせる。

 ▼…日本の地名をポリネシア語で読解している研究者によるとキタ・カタは、「扇状地の密集する所」。アイ・ツは「山に囲まれた所」を指すとかで、なるほど会津盆地の地形とぴったり符合する。そして、この説でも喜多方市は、「中ほど」の会津に対して「外れ」の関係になってしまう。

 ▼…そのためかどうか、喜多方のアイデンティティは、なかなか会津と切り離せないらしい。商工会議所はじめ団体や祭りの名にさえ「会津」が冠される。喜多方独自のはずのラーメンも例外でない。中核都市の周辺地は似たような環境に置かれているが、かつて産業起こしで蔵を林立させた「喜多方魂」はどこに。

(17.Nov,2003 梶田博昭)