酔っぱらいの戯れ言と言うなかれ

  ▼…「侵略には一発の弾丸も持たずに礼儀正しく迎えよう。博愛こそ剣」と紳士君。これに対し「現に戦争はある。文明の成果である軍備を充実し、彼の大国を割き取るべし」と豪傑君。間に入る南海先生の言。「紳士君の説は未来のユートピア。豪傑君は過去の手品を痛快がるだけ。どちらも現在の役には立たない」と。

 ▼…3人の酔っぱらいが天下の趨勢を論じる「三酔人経綸問答」。南海先生の言葉を借りて中江兆民は、国際法を背景とした協調主義や集団的自衛権にまで言及する。120年前の作品だが、現代をも見透かしていたかのような兆民の慧眼に驚くとともに、政治家の知恵の今だ浅きを感じる。

 ▼…もっとも、南海先生はこんなことも言っている。「政治の本質は国民の意向に従い、その知的水準に見合いつつ福祉の利益を得させること」。さらに「民権には、『恩賜の民権』と、下から進んで取る『回復の民権』がある」と国民の政治意識・権利意識に目を向けることも忘れていない。

 ▼…この30行コラムでは紹介しきれないので、岩波文庫から現代語訳付きで出ている「三酔人」の一読をお勧めしたい。イラク問題に日本や国際社会はどう対処すべきか、憲法改正・防衛問題は?、地方分権は?。現在、直面している問題を解決するための多くの知恵が、酔っぱらいの戯れ言に織り込まれている。

(8.Dec,2003 梶田博昭)