副題に「土佐藩の箱館探査から昭和の許可移民まで」とあるように、著者の出身地である高知県からの北海道移民の全体像が、さまざまな資料・データと記録写真、子孫らの聴き取りなど現地調査などに基づいてまとめられている。表紙を飾る札幌農学校一期生は、「土佐ボーイ」と呼ばれ、近代農業を目指す彼らの姿と情熱が、エピソードを交えて綴られている。さらに、湧別、北見そして根釧原野へ移住した人々の足跡を追いながら、開拓地の生活の実像が明らかにされていく。特に、「許可移民台帳」や家計簿の丹念な分析と、当時の新聞記事の調査を基にした生活実態についての論考は、説得力がある。
著者は六十七歳で高知短大に入学、高知大学で「高知県の北海道移民史」をテーマに修士論文をまとめており、本書は全調査・全研究の集大成ともいえる労作。札幌中央図書館等に収蔵。
【北海道開拓を支えた高知人】
前田桂子著、自費出版、3000円+税。
【抜粋】
移住の動機は「自作農への憧れ」が圧倒的で、全員が「道庁及び役所の勧誘」を挙げた。道庁発行の宣伝チラシ「北海道自作農移住者募集・五町歩乃至十五町歩自作農募集・募集戸数一千四百五十戸」が、高知県・零細移民などに「自作農」への憧れを抱かせたと思われる。しかし、「来て見ると、宣伝と大違い」という台詞は、全員が口にした言葉であった。