講義ノート〜市町村合併を考える
NHKスペシャル・TV討論から

2002/04/08
(オンラインプレス「NEXT212」75号掲載)

 片山総務大臣や逢坂ニセコ町長らが出席した「21世紀・日本の課題」(4月7日放映)から、市町村合併に関する論議の内容をご紹介します。

 司会 地方分権と合併との関連は。

 ●片山総務相 国から地方への権限・事務委譲はこれからも拡大する。それを前提に税源移譲も考えなければならないが、地方に税源を与える以上は、地方の態勢をしっかりしなければならない。これからは市町村が主役となるのだから、市町村をもっと強く、大きく、元気にする必要がある。そのために合併を是非進めていきたい。

 司会 なぜ合併を急ぐ必要があるのか?

 市町村に税源・権限委譲 「受け皿」をもっと強固に

 ●片山総務相 平成12年4月から地方分権一括法が施行されたが、これではまだ不十分。小泉首相が言うように、地方ができることは地方に任せた方がいい。そのためには、受けるところがしっかりしていなければならない。  福祉、保健、環境や都市計画などこれからは、都道府県よりも市町村中心でやってもらいたいと思っている。そのために高度な福祉サービスができるような体制、人的な能力を整える必要があり、現在のような市町村数が3200程度の状況では不十分だと思う。1000という目標数は与党の主張であり、政府としてはこれを尊重する立場。あくまで自主的な合併で、区切りは13年3月までにやりたいということだ。明治の大合併は、近代国家を目指して大号令で進めた。昭和の大合併から50年経って、21世紀は地方の時代、特に市町村を中心にするためには、市町村をしっかりしたものにする。そのために平成の大合併をしようということだ。今回は自主的な合併だが、こうした考え方をご理解いただきたい。

司会 合併拒否宣言はどんな理由から?

 住民の目が届く行政重視 退路断つ合併推進策疑問

 ●根本良一・福島県矢祭町長 合併に反対しているわけではない。私たちの町は、どこの町とも合併をしないという宣言をした。合併そのものはそれぞれの地域で、相思相愛で判断すべきこと。第一の理由は、地方行政は住民の目の届くところでという大原則に基づく。合併して大きな囲いの中から住民を隔離したとなると、いい行政とは言えない。  総務大臣は「自主的な判断で」というが、とんでもない話。地方交付税をえさにしてちらつかせて、退路のない、合併という隘路に追い込んでいるのが、今行われている合併の手法だ。地方交付税は地域の息の根を止めかねない大事なものであり、合併のためにそれを交付税をちらつかせることはあってならない。政治家や公務員は国民の税金で食っていることを再認識して欲しい。

 ●片山総務相 「えさ」などとは全く考えていない。それはひがみだ。今まで段階補正についてはいろいろな議論があるので、見直そうと言うことがあるだけ。真綿で首を締めるようだと言うが、必要な場合ならば、ロープで締める。

 ●逢坂誠二・北海道ニセコ町長 確かに、合併していい地域もある。しかし、合併するという場合には非常によく見えるが、合併できない町だとか合併の選択をしないという町には、先が見えない。合併するかしないかの選択は「自主的な判断」というなら、合併の選択をしない地域はどうなるのか示して欲しい。「選択肢の一方が見えない」と言うことで、住民から怒られている。そこを国はもっとはっきり言うべきだ。

 ●片山総務相 地方分権の時代に市町村を再編するのに、実質的な合併じゃないというのは論理矛盾だ。面積が広くなったら困るようなことを言うが、IT時代にあって目は全部に行き届く。合併できないところについてどうやるか考える必要あるが。

 「単独」の選択にも展望を 条件示さず期限切るのは酷

 ●逢坂町長 果たして、そう(ITで対応できる)言い切れるのか。期限を切られて「その中で判断せよ」と言う以上は、比較条件を示さなければならない。それが見えない。

 ●益田寛也・岩手県知事 地形や昔からの地域性などを背景に、合併をどうしても考えずらい所はある。合併は、市町村の規模拡大・格差を認めていくことになるのだから、小規模市町村の扱いをどうするか早急に国県が示す必要ある。良い住民サービスの提供を常に努力して行かねばならない以上、合併ではなく単独でやるところは、どうやってサービスを低下させないようにするか、住民に説明する責任がある。

 ●片山総務相 やはり住民にちゃんと説明することが重要だ。これからの地域社会をどう考えるか、根っこの議論をしっかりやって欲しい。

司会 矢祭町は、合併しないでも財政的にやっていけると言うことか?

 ●根本町長 財政の運営次第だ。人口の減少期を迎え、医療、福祉、教育、文化などしっかりやることが大事だが、そのための基盤整備はかなり進んできていると判断している。その中で住めるような、財源が将来とも確保できるようなことが一番正しい。「自主的判断を」と言うなら、期間を切って、合併するなら財源をいくらでもやる、しなければ元栓を締めると言いかねないような期間を決めるのはいかがなものか。全国首長に充てた片山大臣の親書は、(否応なく合併を迫る)恫喝にも等しい。

 強制の「ムチ」使わないが 合併の「ご褒美」あっていい

 ●片山総務相 親書は、地方の時代・市町村の時代にしなければ、という思いを理解してもらうために丁寧にお願いしたものだ。それに(特例措置の)期限は、だいぶ前から決まっている。  期限を決めてやるのは、一つのやり方。住民サービスを提供するために市町村はある。これからの市町村はどうあるべきか、みんなで議論して、仲良く決めて欲しい。自主的合併だが、今までの合併のやり方とは違う。合併を誘導するためには、少しぐらいご褒美をやると言うことはあってもいい。飴は使うが、ただしムチは一切使わない。

 限定財源生かす仕組みを 避けられない合併論議

 ●本間正明・大阪大大学院教授(経済財政諮問会議議員) 小泉内閣の骨太方針にも書いてあるが、行政サービスは、規模の経済的な側面を持っている。同じサービスを提供する場合、ある一定の範囲の中では費用が低減していく。それを反映する形で交付税制度も組まれている。  それらを念頭に置きながら、与えられた税収の中で行政サービスを十分にやれるようなシステムづくりを考えていくときに、合併は避けて通れない。その際に「飴とムチ」を使ってもいいのでは、と話したこともあるが、大臣はこれは「だめだ」として、地方に理解を示した経緯がある。いやがるもの(合併)をやる必要性はないが、よくよく考えると、経済単位、行政単位として成り立ち得るのは、人口50万人ぐらいで、それを半分ぐらいの状況の行政単位に分けると、昔(幕藩体制時代)の藩とだいたい同じになる。したがって、合併については前向きに議論し、拒絶反応は示さないで、三択の中で決断してもらうのがいいのではないか。

 ●太田房江・大阪府知事 大阪府は人口密度が高い地域で、市の平均人口は20万人、面積からしても、もっと合併が進んでもいい地域と思う。何より財政危機が深刻だ。強制があってはいけないが、自主的なまちづくりをしていく上で、どの生活圏が一番効率的・効果的にまちづくりを進めていけるのかという議論は必要だと思う。府としては合併の選択肢を示し、その中で「みんなで考えましょう路線」を取っている。

 司会 合併についての判断はあくまで自主的ということか。

 「単独」も選択肢だけれど 住民みんなで広く論議を

 ●片山総務相 そうだが、狭い範囲で判断してもらったり、それぞれの立場で判断するのではなく、21世紀の地域のあるべき姿をどうするかという観点で、住民の皆さんに情報を提供する必要がある。みんなで議論した結果「単独でやる」と言うことであれば、その選択もあっていい。それが民主主義だ。広く住民の皆さんとディスカッションして、是非とも、できれば再編整備していただきたい。

<小規模町村の声>

 ●福島県1万2千人の町:合併による自治体の行政能力の向上を図り、国からの財源も委譲されて初めて、住民の夢が実現できる。

 ●埼玉県1万3千人の町:高齢者福祉などあらたな課題克服のため、より効率的な行財政運営、行財政基盤の強化は緊急課題。合併は有効な解決方法である反面、取り残される地域の発生、きめ細かなサービスの低下、地域の連帯感の希薄化などの恐れもある。

 ●岡山県3.300人の町:財源問題が合併問題にすり替えられている。合併による効率化・節減化だけでは財政問題は解決できない。行政サービスの切り捨てが待ちかまえているのでは。

 

 

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