市町村合併に緊急提言〜加速する「駆け込み合併」 |
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地域メディア研究所代表・梶田博昭 2002/12/16 |
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1. 「強制」の影に町村の焦燥感増す2005年3月末の特例措置期限切れをにらんで、市町村合併の動きが全国的に活発化しています。法定協議会の設置数は150件597市町村(12月12日現在)に上り、7月時点に比べるとこの半年足らずで55件213市町村も増えています。 ■「足切り」1万人?3万〜5万人? 合併の動きが加速しているのは、期限内のゴールインを目指すとすれば、2003年3月までに一定の方向を固め、法定協議会設置以降のスケジュールを明確にすることが必要になることが大きな要因と考えられます。また、2001年度決算が出そろい、2003年度の予算編成を進める中で、地方交付税や税収見通しがさらに厳しくなる一方、小規模町村廃止の方向を示した地方制度調査会の「西尾私案」(本誌第100号参照)や自民党総務部会プロジェクトチームの中間報告(巻末に資料添付)が、関係自治体の危機感を増幅させたことも背景にあるようです。 西尾私案では、「国土の大半が基礎的自治体の区域に区分されることが望ましい」と現在の町村廃止の方向を打ち出しました。基礎的自治体の人口規模は明示しなかったものの、「3万〜5万人」を暗に示唆しています。 また、自民党・地方自治に関する検討プロジェクトチームは、12月12日の中間報告で「例えば」と前置きしながらも、「人口1万人未満」の市町村について自治体事務縮小と地方交付税の割増措置縮小を検討課題に挙げました。 ■分権型しくみづくりは一部にとどまる 私案・中間報告ともに、地方分権・住民自治の推進よりも、自治体の規模能力の強化に重点を置いた内容となったため、特に小規模自治体の危機感をあおる形ともなりました。小規模自治体の中には、合併と同時に分権型の住民自治のしくみづくりを目指す地域(長野県・南信州広域連合、同・木曽町任意合併協、島根県・浜田那賀合併検討協など)もありますが、全体としては「駆け込み・強制合併」の流れを加速する結果となっているようです。 2. 内向きの財政論から抜け出せ
人口3万人未満の市町村は全体の約77%を占め、1万人未満に限っても48%と半数近くを占めています。これらの自治体が、人口規模を理由にした「切り捨て」に対し危機感を募らせるのは、地方交付税削減という現実を目前に突き付けられていることも、大きく影響しているようです。 ■リストラ効果よりもプラスアルファ効果を このため、行政内部での合併に関する議論が、財政論に片寄りがちな傾向を見せています。結果として、個別の研究会段階では、どことくっ付くのが財政的に有利かどうかといった「損得論」が中心となりがちで、借金を抱えた自治体を「お荷物視」するような現象さえ見られます。一方で、財政シミュレーションをコンサルタント会社に「丸投げ」するケースもあり、疑問を抱かざるを得ません。 もちろん財政的なメリットを追求することは、合併の大きな目的の一つですが、人件比削減などによる「リストラ効果」や特例措置の「おまけ効果」に目が向きがちな傾向もうかがえます。本来は財政力の弱い自治体ほど、「プラス・アルファ効果」を追求すべきところですが、現状の延長線上の財政論にとどまっているようです。 ■住民参加、職員の意識改革を同時に 特に、財政的に追い詰められて「駆け込み合併」を模索するケースでは、首長や自治体職員らが住民に向けて発するメッセージも財政問題に終始しがちです。このため、住民の目には、合併が「後ろ向きの選択」に映り、数字ばかりの説明が問題をいっそう分かりにくくし、結果的に住民の関心が沈滞するという悪循環に陥る傾向を見せています。 元々、市町村合併は財政難対策が目的ではなく、地方分権時代の自治体の足場をしっかり固めながら、住民本位のまちづくりを進めるのが最大の目的のはずです。総合的な住民自治の基盤づくりが求められており、その過程では、情報の公開・共有と住民参加、首長のリーダーシップと職員の政策形成能力、議会の識見と判断力が問われています。 別のいい方をすると、合併論議を通じて住民参加の機会を広げ、職員の意識改革を進め、議会の機能を高める、絶好のチャンスでもあるわけです。 3. 合併論議に住民を巻き込め合併問題の検討は一般に、自治体単独による内部の検討組織づくりに始まり、近隣との合同研究会などを経て、任意協議会の設置から法定協議会へと移行します。駆け込み的な動きが強まる中、問題となるのが任意の合併協議会です。 任意協が「結婚を前提にした交際期間」とすれば、本来は、さまざまな角度からお互いを見つめ合い、幸せの可能性を探り出す機会のはずです。このため、合併にゴールインした先行組では、1年以上の時間を費やしてじっくり検討し、その延長線上で法定協を効率よく進行させるケースも見られました。 しかし、最近では、明確な方向性や理念を欠いたまま、とりあえず任意協というテーブルに着くというケースが少なからずあります。首長の心理からすると、小規模自治体に対する締め付けからもはや「たか」をくくっているわけにも行かず、さりとて「腹」をくくることもできない、という状況下で、「保険だけは掛けておこう」ということなのかも知れません。 ■任意協設置、5つの必要条件 そうした後ろ向きの心理が働いているからこそ、財政上の損得論に視点が片寄り、根本的な問題解決の先送りにもつながるのではないでしょうか。また、明確な理念を欠いているから、行政内部の調整が中心となり、ますます住民不在の論議に陥る危険をはらんでいるのだと思います。 そこで、任意協なり準備会なりを設置するに当たって、最低限必要な要件を挙げます。 (1) 明確な意思 第1は、首長がそれぞれ我がまちをどうしたいのか明確な意思を持った上で、首長間で腹を割って話し合える場を恒常的に持つこと。これが大前提。 (2) 情報公開 第2に、住民に対する情報公開と説明責任を徹底すること。協議会は原則公開とし、議事録や資料はできるだけいつでも閲覧可能とするとともに、これらを分かりやすくコンパクトにまとめた広報をリアルタイムに発信する工夫が必要でしょう。情報の統一性も求められますから、合併後を先取りして参加自治体による連合広報(写真)という方法もあります。 (3) 住民の参画 第3は、情報の共有を前提に、住民にも合併議論に参加する機会を広げること。特に、合併後の新しいまちづくり構想については、自由参加によるワークショップの開催を通じて、住民の意見や提言を協議会に反映させるしくみも求められます。行政と住民の間に立つ地域リーダーの掘り起こしも、この機会に。 (4) 職員の意識改革 第4は、事務局の専従職員だけでなく広く職員に合併論議に参画させること。2ページの任意協議会の組織構成モデルにあるように、専門部会や将来構想策定委員会に職員を張り付けたり、市民フォーラムの運営を分担する方法もあります。意識改革と住民とのコミュニケーション能力向上には、絶好の機会であるはずです。 (5) 議会の活性化 第5は、議員自身が合併論議に積極的に参加し、議会活動全体を活性化させていくことです。専門部会などを通じて、議員と職員が共同して調査・分析に当たることや、市民フォーラムなどを通じた住民との協働作業など、踏み込んだ取り組みが期待されます。 |
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