2003年 地域はどう変わる

2003/01/14
(NEXT212第107〜108号掲載)

 

 1. 市町村合併 

 自立の原点見失えば地域崩壊へ

 2005年3月に向けて全国的に市町村合併をめぐる動きが活発化しています。この4月までに新たに15前後の合併都市が誕生することが見込まれます。このうち、静岡県静岡市と清水市による新「静岡市」は、人口約70万人で、面積は市最大の約1400平方キロメートルに。また、群馬県万場町と中里村による「神流(かんな)市」は、人口3千人、余面積110平方キロメートルのミニ合併に地域の生き残りを託しています。

 大きな流れとしては、タイムリミットに加えて、厳しい財政事情に追い立てられるように合併を模索する動きが加速し、法定協議会の設置数は全国で150件597市町村(2002年12月12日現在)に上っています。さらに、小規模町村廃止の方向を示した「西尾私案」以降は、強制合併に対する焦燥感から駆け込み的な動きも目に付いてきました。

 ■迷走しないための5つの道しるべ

  2003年は、統一地方選を挟んだ上半期が合併論議の大きな山場となりますが、その選択に当たっては幾つかの落とし穴が潜んでいることに注意が必要でしょう。道を踏み誤らないためのチェックポイントは、次の5つに集約されます。

  1. まちの将来像について首長が明確な理念を持っているか
  2. 合併を含めたまちづくりの在り方を考えるための情報を住民と行政が共有しているか
  3. 的確な情報に基づいて住民が議論に参加しているか
  4. 職員が既成の枠組みにとらわれず、考え、行動できるか
  5. 議員・議会が本来の機能を発揮しているか

 角度を変えてみると、市町村合併の原点を踏まえた議論が行われているかどうか、ということに尽きます。平成の大合併の起点ともなった地方制度調査会の答申(98年4月)では、次の3点が合併の目的に据えられました。

  • 地方分権の推進に伴う自立性の強化
  • 少子高齢化の進展などに対する高度かつ多様なサービス水準の確保
  • 厳しい財政状況の中での効率的、効果的な行政の展開

 ■誰が本当の「勝ち組」か

  ところが、昨今の合併論議は、「厳しい財政状況」が喧伝される中で、規模拡大による効率追求の一点に絞られた議論が大勢を占めているのが現実です。財政難・効率化という行政の都合が優先されるから、まちづくりの明確な理念がないまま後ろ向きで一方通行の議論に陥っているわけです。地域(住民)の自立(自律)という原点を見失った合併は、地方の崩壊にもつながりかねません。

 合併問題を論議することは、一つの選択肢・手法としてまちの将来を考える大きな契機となると同時に、議論の過程で情報共有や住民参加のしくみづくりや、職員の意識改革が進められることが期待されていたはずです。まちづくりを永遠の課題と考えれば、合併するかどうかの結論よりも、「自律」のためのしくみや意識の方が重要であり、このことに気付いた住民・地域こそが、本当の意味の生き残りの可能性をつかんだ「勝ち組」ということができるでしょう。

 2. 首長・自治体職員 

 「丸投げ」か「率先」かで明暗分かれる

 市町村合併は、誰の責任と判断で行われるのでしょうか。合併特例法の一部改正により、住民発議や住民投票に込められた「住民意思」がより重視され、発議以前に住民を対象とした意識調査や、条例化による住民投票が広く行われるようになってきました。こうした動きに議会が間接民主制の原則から反発するケースも見られますが、大きな流れとして住民投票は合併問題を判断する上で一般化する傾向を強めるでしょう。

 ■発信力と経営能力問われる首長

  住民意思を重視する立場から、合併問題についての判断を住民投票の結果に委ねる首長も目に付きます。判断材料が住民に公開・提供されていることを前提とすれば、この考え方に基本的に問題はないのですが、首長としての明確な考えが示されないまま判断を住民に「丸投げ」されるとすれば、疑問が残ります。

 まちづくりを進める地域のリーダーである以上、合併という「手法」を選択するかどうかは別にしても、地域と住民の暮らしの将来がどうあるべきか、どうありたいか、という考えを持っていることは当然のはずです。現状を説明し、目指すべき姿を描き、その2点をつなぐ手法に知恵を集め工夫を凝らすのが、首長の役割だから、厳しい現実を語るだけでは責任を果たしていることにはなりません。

 厳しい現実を正しく理解する住民は、明確な方向性を示す発信力と確かなマネジメント能力を合わせ持ったリーダーを求めることになるでしょう。(余談ながら、これまで以上に閉塞感の強い社会経済環境を考えると、今春の統一地方選挙では、「市民派」以上に異能・異才に満ちあふれた「カリスマ首長」が注目を浴びる場面もありそうです)

 ■職員にもバリュー・フォー・マネーの風

  豊かな政策的発想とマネジメント能力という点では、個々の職員と行政全体にもそれが求められる時代に入りました。ある種のカリスマ性と市民性を兼ね備えた北川・三重県知事は県庁職員に向けた念頭のあいさつで、「従来のヒエラルヒーではなく、国がどう考えているかといった発想を捨てて、何が県民のためになるかの視点で改革を」として若手の発想と自己決定・自己責任能力を高めるように求めました。田中康夫・長野県知事もまた、前例踏襲・組織維持の体質からの脱却に向けた職員の意識改革を強調しています。

 もう一つ共通しているのは、職員が寄って立つところは、役所・役場という組織ではなく、地域の一員としての位置付けです。地方にとって逆風の時代に、小さくともきらりとした輝きを保っているまちの多くが、そうした首長と職員の流す汗に住民も共鳴するところから最初の一歩を踏み出している現実が、このことを雄弁に物語っています。

 最近の川柳に、こんな句があります。

 「湯加減を 語りたがらぬ 公務員」

 大量失業・リストラ時代にあって、公務員に対する市民の視線は厳しさを増しており、「バリュー・フォー・マネー」の視点から公務員制度そのものが問われる時代にもなっていることを肝に銘じるべきでしょう。

 3. 住民参加 

 「地域力」生かした市民事業へ

 地域(住民)の自立(自律)とは、地域で解決すべきさまざまな課題を埋もれさせることなく掘り起こし、整理し、解決の方向と道筋を見つけ出し、現実にその手立てを講じていくことにほかなりません。やっかいなのは、国・地方の財政難や長引く不況を背景に資金的な制約を受けている一方、価値観の多様化・少子高齢化の進展などを背景に地域の課題も複雑・多様化していることです。

 ■地域内分権と協働型まちづくり

 これらの難題に立ち向かう上で重要なのは「地域の総合力」の発揮であり、問題解決に住民の知恵と力をネットワークできるかが大きなカギとなるでしょう。そのためには、住民自治の原点となる地方議会の活性化や住民参加の推進が求められます。

 昨今の合併論議では、行財政の効率化に片寄った議論が目立ちます。しかし、合併のもう一つの目標である住民自治の視点に立てば、政策形成に対する住民参加からさらに踏み込み、住民の自治活動を基本に地域のさまざまなセクターが行政の及ばない分野・領域を補う「協働型まちづくり」の方向が見えてきます。

 長野県南部の飯田市など18市町村による南信州広域連合がまとめた「地域自治構想」が、一つのモデルを提示しています。1市統合による行政のスリム化と地域内分権を柱に、地域づくりの基本を「まず住民一人ひとりが、次に家族などの協力で、さらには地域の協力でできることは行い、それでもできない事柄については行政が担う」と位置付けています。

 ■教育・環境など住民が企画・実施

  合併を含めて地域間の連携により行財政の効率化を追求する一方で、暮らしのレベルでより密接なつながりを持つコミュニティが重要な存在となり、その「地域力・住民力」を生かせるかどうかが、まちの方向を決定付けることにもなりそうです。

 住民参加・協働の基盤となる地域情報・行政情報の面から見ると、パブリックコメントやワークショップなどを通じた「情報の受発信」から行政と住民による「情報の共有」「知の蓄積」へとステップアップする段階にあります。さらに「知の蓄積」を基に、行政と住民による「協働事業」や、住民自身が企画し実行する「市民事業」が教育、福祉、環境、エネルギー開発といった分野で展開されることも期待されます。

 4. 地方議会・議員 

 オープン議会・ハイパー議員を

 地方自治の本質が「住民自治」であり、2000年4月の地方分権一括法の施行を起点として、本格的な地方分権改革がスタートしました。しかし、住民の代表によって構成され、住民意思を的確に反映させる舞台となるべき地方議会は、その機能を十分果たしているでしょうか。現実には、行政の改革の動きにブレーキをかけ、住民との意見の対立が混乱を増幅させるといった事態も見られます。

 ■情報公開が改革の第一歩

  国政選挙に限らず、地方議員選挙においても投票率が低落傾向を見せていることも、見過ごせない事実です。議会の姿は住民の有り様を一面で映し出しているものですが、議会・議員の機能低下は、地方自治にとって大きな危機ともいえます。

 地方議会改革のカギは、行政と同様に情報の公開などを通じた議会活動の透明化と、立法機能の発揮にあると思います。ところが、関東弁護士会連合会が2001年春、関東圏11都県の地方議会を対象に行った調査では、条例や規則などに基づいて委員会審議を原則公開としている県議会・市区町村議会は19.2%に過ぎませんでした。また、全体の約44.3%の議会では、議員提案による条例制定が過去10年間に1件もありませんでした。

 議会活動の透明化は、住民の目を議会と政策に向けさせると同時に、議員意識を高め、視点を住民に近付ける効果を持っています。ナイター議会や日曜議会といった取り組みのほかに、インターネットやCATVなどを通じた議会中継、議事録公開などの方法は、議会と住民をつなぐ新たなチャンネルとして活用が期待されます。また、「一問一答」による審議方式などの工夫も、旧弊を打ち破るきっかけとなりそうです。

 ■条例づくりで問われる政策能力

  しかし、最も重要なのが、議員個々の意識・能力と、そうした人材を議会に送り出す住民の選択眼ではないでしょうか。そんな議員に求められるのは、まちづくりに対する明確な理念を持っているのは当然として、第1に、そうした理念や行政の課題・現状を明解に住民に伝えると同時に住民の声に耳を傾ける「情報受発信力」。第2に、総合的な視野と専門的な視点に立った「政策立案能力」が挙げられます。特に、自己決定・自己責任の原則に基づいた住民自治の実現を図っていく上では、条例の重要性を増しており、条例制定をめぐる議論自体が、住民〜行政〜議会の関係を緊密にし活性化する効果をもたらすと期待されます。

 住民参加と議会との関係では、住民投票制度が今後も大きな焦点となりそうです。住民投票自体は、住民の意思を直接的に反映することができる機会を広げるもので、間接民主制の補完措置として機能することが求められています。住民参加の機会拡大と同時に住民投票の活用が期待されますが、情報の公開を前提にした行政や議会内、行政と住民、議員と住民の間での十分な議論と検証が行われることが、必要条件となるでしょう。 多様な住民による議会構成、議員の専門性の向上、議事対象の拡大など議会制度の改革が待たれる問題もありますが、今春の統一地方選は、地方議会の流れを大きく変える「改革派議員」の誕生を期待したい。

 

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