RE-BORN FORUM 地域の未来を考えるニセコ・羊蹄5町村長フォーラムダイジェスト |
2004/05/10 |
個性生かしながら、連携の形を模索2003年9月に北海道後志支庁の倶知安、ニセコ両町が設置した合併協議会は、その後蘭越町、真狩村、喜茂別町が参加し、5町村の枠組みによる合併論議が本格化しています。去る4月5日には、新町将来構想の発表と合わせて、5人の首長にアドバイザーの川村喜芳・北海学園大学講師とコーディネーターの梶田博昭・地域メディア研究所代表が加わって、「地域の未来を考える」と題したフォーラムが開催されました。首長自身によるSWOT分析とともに、概要をお伝えします。 <1>マチは何を目指し、何がカベなのか●梶田コーディネーター これからのまちづくりを進める上で、今何が問題なのか、何をどのように目指していくのか。 各集落の均衡ある発展を ●宮谷内留雄・蘭越町長 蘭越は面積が広く、市街地のほか大きく4つの集落が形成されているから、町内各地域の均衡ある発展に重点を置いたまちづくりを進めている。将来の財政運営には大きな不安があるが、合併した場合でも同様に厳しい。目先にとらわれず、納税者の立場になって、徹底した行政の無駄をなくし、効率的で計画性を持った行財政を行うことが大事だ。町民が一つの心になって郷土愛を持ち、協働しながら、まちづくりに全力を尽くしていくことが最も望まれている。 目標は「美しい世界の小都市」 ●逢坂誠二・ニセコ町長 「小さくても美しい世界の小都市ニセコ」というまちづくりを目指したい。その底に流れる考え方は、環境への配慮、地域に根差した文化、安全な食といったイメージだ。まちづくりの担い手は、これまでの役場中心から町民主体の多様なものに変化すべき。その上でも情報共有や参加は必ず備えなければいけないものだと考えている。しかし、情報を共有化したとしても実現するための具体的なシナリオが不足している。地域課題はあるが、全国的な視点からの発信が不足している。 国や道の支援策は不可欠 ●筒井末美・真狩村長 当村では教育や福祉、基幹産業の農業振興に力を入れるべきだと考えている。地域振興については国・道の支援策が今後も必要だ。村づくりの将来については合併議論を通して、地域の在り方について真剣に検討しているところだ。結論はまだこれからだが、今後も5町村で真剣に考えていきたい。 町民自律し、役場も変化が必要 ●津谷正明・喜茂別町長 まちづくりは費用がかかるので、町民と一緒になって意識を高めていきたい。町民にも一定の負担をしてもらうことを考えながら、政策づくりを進めている。町民に自律した力が付くと、役場機能も変わっていかなければならない。30%ほど一般職を削ったので大変な状態だが、やはり、役場の力としては将来起こる問題を早期に発見する力を持つ必要がある。 近隣町村との連携が生命線 ●伊藤弘・倶知安町長 倶知安は後志、特に羊蹄山麓地域の中核的な役割を果たしてきた。しかし、その役割は近隣町村の理解・協力があったればこそだ。現在は合併問題を第一に議論しているが、今後も永久的に心を割って仲良くしていくことが倶知安の生命線だと思う。倶知安をどんな町にしていくかは、住民がいかに幸せになれるか、幸せになるための環境を整えられるのかに尽きる。合併によって町がどのような影響を受けるのか、プラスになるのか、新たな角度から協議していくことは非常に有意義だ。 ●梶田コーディネーター 5住民も行政も互いにあなた任せではだめだ。力を合わせる、役割分担がカギの一つではないか。それぞれの町村の持ち味、特性、「らしさ」をどのように生かしていくかが重要だ。 役場の意識改革が第一歩 ●川村アドバイザー 現在のまちづくりにとって最大の障害は、財政問題にある。行政の効率化の最たるものが合併だと言わざるを得ない。総務省は自主的な合併を言ってきたが、事実上は強制合併の方向にあることは、地方交付税の大幅な削減に現れている。確かに国の財政は破たん寸前なので、交付税削減はある程度やむを得ないだろうが、実際は小規模自治体が狙い撃ちされている。道内の自治体を見ると、住民が自ら地域づくりに汗を流している町は、行政運営の透明性を重視するなど役場の意識が変わってきている。まず役場の意識改革を進めることが、地域づくりには求められている。 <2>生かせる地域資源・チャンスは何か●梶田コーディネーター これからのまちづくりを考える上で、生かせる地域資源は何なのか。チャンスはあるのか。チャンスを生かすにはどんな戦略があるのか。 コミュニティの人材生かして ●宮谷内・蘭越町長 蘭越には地域のコミュニティー活動を支える人材がかなりいると自負している。温泉などの観光資源や尻別川といった自然、らんこし米をはじめとする農産物が内外に評価されている。一方の課題である農業の後継者不足、若者の流出については、できる範囲で全力を尽くして対策を進めていかなければいけない。 情報共有・住民参加ステップに ●逢坂・ニセコ町長 これまでニセコ町がやってきた情報共有、住民参加、透明性を大きな資源ととらえ、さらに取り組んでいきたい。具体的には、環境重視型農業と観光との連携が非常に大きな目標だ。さらに、近年ニーズの高まっている子育て支援について、幼稚園や保育所の在り方を見直し、新たな教育へのアプローチとして取り組みたい。「ニセコブランド」の活用も地域の資源であり、チャンスである。 特産物と人材生かし農業振興 ●筒井・真狩村長 農業が地域産業の柱であり、日本一のシェアを誇る食用ユリ根などの特産物をさらに発展させたい。比較的農業後継者が多いことからも、将来を担っていく人材があることを誇りに思っている。村立の農業高校と農業振興との連携を図る道も探っている。こうした人材育成もしながら、村の将来を考えていきたい。 青年のまちづくり活動を核に ●津谷・喜茂別町長 人的資源として多様なボランティア活動がある。特に、農業や商工業に携わる青年が、職種を超えたまちづくり活動を進めている。国道2路線が通過する地の利とアスパラガスなどの観光資源ももっと生かしたい。悩みは、若者の定住促進、少子化対策だが、5町村の連携によって町からの委託業務の受け皿となる組織ができるなど、若者の雇用の場の拡大に期待が持てる。 多様な知識経験を地域に還元 ●伊藤・倶知安町長 倶知安は行政、民間を含め転勤族が多い。オーストラリアの人たちに代表されるように、単にスキーなどのレジャーに来るだけでなく、そこに住んで観光事業に投資するという傾向がある。彼らの知識や経験を、地域に還元してもらうことを期待している。さらに、まちづくり・人づくりの機運を押し上げ、定着させたい。豊富な人材をどう生かすかが、今後の課題だ。 人材のネットワーク化もカギ ●梶田コーディネーター 各町村に共通する地域資源として、人材の豊かさが挙げられ、女性や中高年齢者の社会参加が活発になり、若い世代を中心にNPO活動も活性化している。その人材をいかに生かし、ネットワーク化させるかが、今後のまちづくりを進める上でチャンスになる。 <3>広域圏としてどう評価するか●梶田コーディネーター ニセコ・羊蹄エリアの弱点としては、広大な面積、公共交通・高速交通網の未整備、小規模自治体が多く、都市機能が低い、地元雇用につながる企業が少ない、専門高等教育機関がない、農産物の付加価値を高める工夫が不十分〜などが挙げられる。5町村の連携が弱点克服の一つの道と思うが、その基盤となる圏域の一体感は、現状としてどう評価できるのか。 観光・農業で統一的イメージ ●逢坂誠二・ニセコ町長 外から見れば、ニセコ・羊蹄地域は観光、農業などでひとまとまりの地域に見られるのではないか。仮に合併すれば、イメージを作り出しやすい。ただ、地元の目線で見ると、ニセコ連峰のすそ野、羊蹄山、尻別川といった見方のように、同じ一体感でもいくつかの層になっていると思う。 羊蹄山麓、気持ちは一体化 ●伊藤弘・倶知安町長 「ニセコブランド」はわが町でも十分使わせてもらっているし、使うことに抵抗はない。慣れ切っている。ここまで来ると、ニセコと倶知安に2人の町長はいらないような気がするくらいだ。羊蹄山の頂上からは7つの町村が見え、一体化していると素直に感じる。どういう形になるかは別にしろ、気持ちは一体化の現実になっていると思う。 「ニセコブランド」統一は疑問 ●宮谷内留雄・蘭越町長 ニセコの名前は全国的だが、地域をニセコブランドで統一することが良いのかどうかは疑問だ。地域を統一して全国に発信することが、どういう形で住民生活にかかわるのかをまず考えるべきだ。それぞれの町村がキラッと光るまちづくりをしてきた自負もある。個人的には、地域づくりに重要なのは、第一に人的・物質的資源であり、経済的なものをあまり追求することには疑問が残る。 広域的な視点と譲り合いで ●逢坂・ニセコ町長 この地域は、観光、経済の動き、医療などではほとんど一体化しており、広域的な視点で見た方が有利だなと思えるところがある。一方、個別に見ると結構違っている点も多い。合併するしないの話は別に、地域の人たちは地域間に対立が起こるのではないか、倶知安だけが栄えて、ほかはどんどん衰退してしまうのではないかという不安を抱えている。この懸念をどう払しょくするかということを明確に提示できないと、合併に賛成できないつらさもある。最終的にどの選択肢を選んだとしても、地域の連携は絶対に必要だ。そのためにも今後重要なのは譲り合いだ。 統一・分散の利点ともに生かす ●梶田コーディネーター 全国に通用する「ニセコブランド」があることは大きな強みであり、地域の一体感にもつながる。一方で分散・個性化していることもある。統一していることのメリット、分散していることのメリット、両方を活用する知恵・工夫が合併問題を考える上でも大事なことだ。合併論議の中では、合併による地域間対立やどこかに偏るのではという懸念が非常に大きい。しかし二者択一ではなく、選択肢を狭めない柔軟な発想で問題に対処することが合併問題を含めてまちづくりを考える上でもカギとなる。 「ミニ町村」が連携する道も ●川村喜芳アドバイザー 地方分権とは地域住民の自己決定権を拡充することであり、分権の流れは最大のチャンスととらえるべきだ。合併とは自立した自治体政府をはぐくむための手段だが、役場の職員が千人の町でできることと、60人の村でできることは決して同じではないのに、市町村はみんな同じことをやっている。小さな町であるために専門家集団が作れないのでは、せっかくのチャンスが生かせない。要は、分権をどう使うかだ。広域のメリットと分散のメリットについては対立としてとらえがちだが、合併特例区、地域自治区というミニ町村を作るという方法もある。効率化が望まれることは一括して処理し、政策的な事業については旧町村単位で財源を配分してそれぞれの優先順位、住民ニーズに従って自由に執行するやり方も十分できる。合併をもう少し前向きに、プラス志向で考えてもいいのではないか。 <4>合併の是非、どう最終判断するのか●梶田コーディネーター この秋に予定する最終判断に向けて、各町村長はどのような手順で進めていくのか、何を重視して判断するのか。首長の意思はどんな形で表すのか、住民、議会の意向をどう反映させていくのか。 自立の可能性も探りながら ●宮谷内・蘭越町長 行政・議会・住民の三者が情報を共有し、議会での自立の道の検討を含め、自立の可能性も探りながら、あくまでも住民の意向、意思を生かしていきたい。最終的には首長の提案を議会が判断し、道を選ぶことになるが、早い機会に何回かアンケート調査をして民意を反映させたい。 合併効果の有無が基準 ●筒井末美・真狩村長 住民の意向を尊重することはもちろんだが、議会との十分な議論を真剣に行っていきたい。住民説明会や住民の意向を聞く機会を1回でも多く設けて、行政、議会の意向も住民に知らせていかなくてはいけない。判断基準は、基本的には合併効果があるかどうかだ。さらに、協働事業がこれからの地方自治体のもう一つの選択肢と考えている。秋には苦渋の選択をしなくてはならない。村民と真剣に協議をしながら決定する。 国の「球筋」も見極めてから ●逢坂・ニセコ町長 来年3月の知事への申請期限に間に合わせるには、秋の終わりか冬の初めが最終判断の時期。内部意思を固めるためには、2回ぐらいの民意を確認する手段をとりたい。夏ぐらいに1回目として、アンケートのような多少選択肢の幅の広いものを行い、2回目にもう少し選択肢を狭めたものをやって、最終的な住民意思を確認したい。最後は私の意志を明確にして議会の判断につなげていく。 今回の合併は国がボールを投げてきたのだから、その球筋を時間のある限りきちんと見極めてから、がっちりと確信を持って判断したい。慌てて判断する必要はなく、できる限りの情報提供をすることが、大きな課題だ。 議会も私も「合併」が前提 ●津谷正明・喜茂別町長 議会12人全員と私の間では、合併を前提として進もうということで結論が出ている。今後は徹底した住民懇談会を重ねて最終的な結論を出したい。 自分の意見表明し、住民の意向調査 ●伊藤・倶知安町長 最終判断は今年末か来年早々にしたい。もちろん住民の判断、それに対する私自身の考え方、その判断に基づく議会提案、議決という手順が一つある。その前に、合併協議会による大まかな結論や形が今年夏から秋にかけて出ると思うので、その段階で住民の意向を確認したい。その時には私の意見もできるだけ表明した中で、意向調査をやりたいと考えている。 ●梶田コーディネーター 地域が抱える問題解決や課題の克服のためには、▽チャンスを生かす柔軟な発想▽地域の中で幅広く議論する場▽住民同士の絆大切にしながら、いかに連携させるか〜ということが重要だと思う。5人の町村長と住民とが力を合わせて課題に立ち向かい、地域の未来を開いていくことを期待している。 ☆ ☆ ☆ 「すばる型カントリー」〜フォーラムを終えて〜 今回のフォーラムは、合併問題を契機とした今後のまちづくりの議論を住民レベルでも深めてゆくために、5人の首長自身によるSWOT分析に沿って、広域連携の可能性を探ることとしました。お話をうかがい、多様で個性的な表情と、農業や観光面の統一感を合わせ持つ圏域の特性を、改めて感じ取ることができました。個性を磨くことで住民の生き甲斐と誇りを守り、一体感を強めることで全国・世界に通じる優位性と経済性を高める。その戦略と住民パワーの結集が今、求められているのだと思います。星に例えれば、プレアデス星団(すばる)型の魅力ある地域づくりの可能性を秘めていると思いました。 (梶田)
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